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「暗号技術」――家電にも欠かせないその技術デジモノ家電を読み解くキーワード

» 2009年08月20日 12時47分 公開
[海上忍,ITmedia]

共通鍵暗号とは

 デジタルデータを違法コピーや傍受から保護することが、家電分野における暗号化技術の主な目的だ。データを暗号化したうえで記録、または生データを出力開始するときに暗号化を施し、適正な権利を持つことを確認(認証)したうえで、画面やほかの電子機器などのデバイスへと転送する。その認証には、電子的な「鍵」を用いることが一般的だ。

 PCや家電の分野では、「共通鍵暗号方式」が広く普及している。データの送信側と受信側が共通の鍵を利用するため、他の方式と比較すると処理速度に優れ、結果として大容量データの扱いに適していることが長所といえる。

 共通鍵暗号方式にはいくつかのアルゴリズムがあり、米国立標準技術局(NIST)により米国政府の標準暗号化技術として認定され無線LANなどに採用されている「AES」、大手メーカーが共同開発しAV機器の接続に利用されている「DTCP」「DTCP-IP」などさまざま。どのアルゴリズムを採用するかは、メーカーあるいは製品が準じる規格によるが、データの単位(ブロック長)および鍵データ長が増大傾向にあることは確かだ。

知らずに利用している?暗号化技術

 デジモノ家電の場合、暗号化技術はチップの形で製品実装されて提供されることが多く、ユーザーは暗号化処理を意識しないまま利用できることが多い。例えば、家庭の電気配線をネットワークとして利用できる電力線搬送通信仕様「HD-PLC」の場合、対応製品の多くは初期設定の状態でAES 128bitによる暗号化が施され、しかも親子機間における暗号鍵の設定が自動化されているため、暗号化そのものを意識する必要がない。

 いうなればデータを扱う機器の大半が暗号化に対応している、と考えても差し支えない。携帯電話の場合、W-CDMA方式では三菱電機が開発した「KASUMI」が採用され、データ通信と音声のいずれも暗号化されている。無線LANに対応するニンテンドーDSも、セキュリティ的に難があるとされるWEPにしか対応しないが、データは暗号化されている。我々の知らぬ間に、暗号化技術は家庭の隅々にまで浸透しているのだ。

おもな共通鍵暗号方式
名称 鍵のデータ長 概要
DES 56bit 1977年にIBMが策定、米国標準暗号方式として採用された。90年代末に総当たり攻撃(Brute Force Attack)による解読が実証され、AESの制定後に米国標準暗号方式から取り下げられた。
Triple DES(3DES) 64bit IBMが策定した、DESの改良強化版。DESを三重にかけて強度を高めている。
AES 128/192/256bit NISTによって2001年に策定された、現在の米国標準暗号方式。無線LAN規格のWPA2などに採用されている。
Camellia 128/192/256bit NTTと三菱電機が共同開発、2006年にソースコードが公開された、国産の共通鍵アルゴリズム。OpenSSLなどオープンソース製品に採用実績がある。

執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)

ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。


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