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オールドファンのための奇跡のプロダクツ――ペンタックス「Limitedレンズ」矢野渉の「金属魂」的、デジカメ試用記

» 2009年10月16日 12時44分 公開
[矢野渉,ITmedia]

 K-7のボディが、リミテッド(Limited)レンズとのマッチングを考えてデザインされていると聞き、実際に使ってみたくなった。現在のリミテッドはデジタル専用(つまりAPS-C専用)のDAというラインであり、従来のFAレンズよりもさらに細身になっている。DAレンズの中では40ミリの最薄パンケーキ「DA40mmF2.8 Limited」が注目されがちだが、こちらは語りつくされている感があるので、あえて「DA35mmF2.8 Macro Limited」と「DA70mmF2.4Limited」をとりあげてみた。

 まずDA35mmF2.8 Macro Limited。このレンズをK-7に装着してみて懐かしい感覚を覚える人は、おそらく1980年代初めに写真を撮りはじめた人だ。一眼レフを買ってみたものの、レンズまではなかなか金が回らない。標準レンズ1本というのもいかにも素人まるだしだ。そこに標準マクロという選択があった。

photo 「DA35mmF2.8 Macro Limited」 奥に引っ込んだガラスレンズの小ささが「マクロ」の証だ。小さいながらなかなかに主張するレンズである。

 50ミリ(35ミリ換算)近辺のレンズは不思議な魅力があって、望遠レンズ風に使いたければぐっと寄ればいいし、広角レンズ風に使いたければ後ろに走ればいい。僕らは「人間ズームレンズ」なんて呼んでいたけれど、マクロならばさらに等倍まで寄れる機能が加わるのである。標準マクロで風景やポートレイトや物撮りまでこなした人は意外に多いと思う。

 あの時代のテイストを残した短焦点レンズがここにある。もちろんオートフォーカス、絞りリングもないのだが、イメージとしては「あの頃のまま」だ。ペンタックス開発陣の意図がよくわかる。全体を覆う金属感。ゴムの滑り止めさえない。内蔵引き出し式のフードも金属だ。その内側には乱反射防止の起毛素材がはりつけられている。ここまでやって、この価格で大丈夫なのかと心配になるほどである。

 僕はこの35ミリマクロを常用レンズとしてK-7に付けっぱなしにすることをお勧めする。ズームレンズとは別格の画質の良さがあるし、工夫次第で色々な写真が取れるからだ。K-7を購入する人はその辺のことは解っているとは思うのだけれど。

 もうひとつ気になったレンズはDA70mmF2.4Limitedだ。なんとこのレンズ、70ミリなのに全長が26ミリしかない。35ミリ換算で105ミリ前後。中望遠でも長い方なのに、である。

photo 「DA70mmF2.4Limited」 先端に向かってすぼまっていくペンタックス独特のラインが美しい。
photo フード部分をはずすと驚異の全長26ミリが実感できる。フィルター径は49ミリなので、昔のタクマーレンズの金属フードをねじ込めば、レトロっぽい演出もできる

 この薄さは「中望遠パンケーキ」と呼んでさしつかえないだろう。今までの、「レンズは解放f値をより明るく」という思想はここにはない。結果、レンズ口径が大きくなり、全体に肥大化するからだ。

 さりげなく持ち運べて、そこそこの写りが得られる、日用品のようなレンズ。気合を入れずに、カメラを常に携行できることによって生まれる写真もあるのだ。そのためのレンズの小型化。そのレンズにベストマッチするようにデザインされたK-7。ペンタックスの意図はとてもわかり易い。

 かといって、写真歴の長いハイアマチュアは「小型軽量」だけで満足するほど簡単な人種ではない。手になじむ質感はどうしてもはずせない。このDA70mmF2.4Limitedは、その辺も怠りない。伝統の金属製かぶせ式キャップ。金属製の鏡筒。このあたりは当然として、面白いのは引き出し式のフード部分がはずせることだ。フードをはずすとフィルターのねじが切ってある部分が出てくる。

 僕は、これは古いペンタックスファンへのサービスではないかと考えている。レンズ自体の短さを強調する意味もあるのだろうが、ペンタックスがタクマーレンズの頃からコダわっている49ミリのフィルター径をむき出しにすることによって、使用者に夢を与えているような感じを受けるのだ。

 昔使っていたゼラチンフィルターホルダーがそのまま使える。もっと言えば49ミリのフィルターが全部使える。ペンタックスファンの喜びは半端ではないだろう。

 リミテッドレンズ。その設計思想はあまりに深く、そして慈愛に満ちている。

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