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家庭用3Dプロジェクターの可能性(2)本田雅一のTV Style

» 2010年04月19日 18時47分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 前回は、民生用3Dプロジェクターの発売は意外に難しいという話をした。同時に業務用として使われている3D投写システムについても書いたが、この中でもっとも3Dの品質に関して期待できないExpanDの方式が、もっとも既存の投写設備を変更せず、簡単に3D化が行えることも理解していただけたと思う。

 設置環境を綿密に練ってからインストールを行う業務用に対し、製品を買ってきてポンと置くだけでそれなりに映らなければならない家庭向けの製品では、自然とアプローチは異なるものだ。しかし、スクリーンの変更などを伴わないExpanDの方式は、家庭でのプロジェクター設置環境に最も近い。言い換えればExpanDと似たやり方ならば、3Dプロジェクターも実現できる。

 その際に問題になるのは、繰り返しになるが、やはり”明るさ”だ。

 ExpanDと同様のフレームシーケンシャル表示で投写するシステムは、すでにDMDを用いるプロジェクター(DLP)として、いくつか発売されている。ただし、あまり家庭向けプロジェクターとして話題にならないのは、教育用やプレゼンテーション用途を想定したデータ用プロジェクターの仲間だからだ。

 データ用プロジェクターは、色純度や色バランスよりも明るさを優先に作ってあるため、3D化によって光量が劇的に落ちたとしても、部屋を暗くすれば問題なく明るい3D映像を楽しめる。小型のものでも2000ルーメンぐらいはあるため、これがたとえ1/4になったとしても暗所での投写に不足ない500ルーメンを確保できる。

 ただし、映画を楽しめるほどの画質ではない。データ用のDLPプロジェクターで映画を観ても画質が気にならないというなら話は別だが、いくら3Dプロジェクターがほしいからといって、映画好きが買うべき製品ではないだろう。

 では、今年1月の「2010 International CES」で発表されたLG電子の3D SXRDプロジェクター「CF3D」は、どのようにして問題を解決しているのだろう。そもそも、問題を解決できているのだろうか?

photo LG電子が2010 International CESで発表した3D SXRDプロジェクター「CF3D」

 LGが出した結論は、問題解決のアプローチこそ異なるものの、ソニーが業務用3Dプロジェクターで出したものと非常によく似ている。ソニーはフルHDの約4倍に相当する画素を持つ4Kプロジェクターの解像度を活用し、画面を2分割して左右像の投写に利用し、それを光学的に合成するレンズを用意することで業務用プロジェクターを3D化した。

 CF3Dの場合は、2系統の光学回路を1つの本体に内蔵し、それをレンズ内で合成して投写している。もちろん、左右の映像回路には、それぞれ異なる方向の偏光がかけられている。それぞれの光学回路には別々のランプが装備されているので、明るさを維持できるのが最大の利点だ。

photophoto 左はソニーの業務用3Dプロジェクター「SRX-R320」(3Dプロジェクションレンズユニット装着時)

 いわばプロジェクターのスタック設置(2台重ねて同じ映像投写することで明るさを高める手法)を、筐体の中で行っているのがCF3Dといえるだろう。フレームシーケンシャルではないため、フリッカーによるちらつきの問題もない。副次的な効果としては、2Dをデュアル光学回路で投写する場合には2倍の光量を得られる利点もある。

 実際にCESのデモ会場で投影されていた3D映像は、充分に納得できるクオリティーのものだった。ただし、スクリーンを選ぶという問題を解決することはできない。CESの会場で質問してみたところ、1つのレンズに光束をまとめて投写するので、スクリーンとのマッチングは取りやすくなるとは話していた。しかし、こればかりは実際にさまざまなマット系スクリーンに投写して評価してみないことには、どのぐらい使えるのか分からない。

 日本での発売予定はないCF3Dだが、5月とされる発売時期になれば、一般的なホワイトマットスクリーンへの投写で、どの程度の3D品質が実現できているのか分かってくるだろう。それまでは評価を保留しておく必要がある。

 外には……と書きたいところだが、今のところは新たなる有望な方式は耳にしていない。おそらく、上記2つのいずれかの方法が主流になっていくだろうが、今後、どちらが主流になるかは予想しにくい。

 前者に関して言えば、そのうち明るさを確保した上で3D投写が可能なフレームシーケンシャル型3Dプロジェクターも登場するに違いない。現在はDLP中心だが、4倍速駆動の反射型液晶パネルが一般化すれば、LCOSプロジェクターでもこの方式を採用することが可能だ。

 一方、左右別々の偏光をかけた映像をプロジェクター内部で合成して投写する手法は、LGのような2重のシステムを用いる方法が用いられるのは、今だけの一時的なものだと予想している。

 単純に2倍のコストがかかるとすると、価格上昇による販売量の違いなどを勘案すると価格は4倍ぐらいに跳ね上がるだろう。20万円クラスのプロジェクターなら60万円、30万円なら120万円ぐらいが想定価格帯になる。

 将来はより高解像度なデバイスを用いて高解像度化(4K対応)を果たし、その上で光学系に工夫を加えるソニーの業務用プロジェクターと同様の手法を用いるのが良いが、今度は(パネルそのもの高解像度化というハードルもあるが)光学系のコストが問題になるかもしれない。

 ということで、実のところまだ実用的な家庭向け3Dプロジェクターは、意外にも世の中にないことが分かる。今年年末に3D対応をうたうところもあるだろうが、本格的に技術がこなれてくるのは、おそらく来年か、再来年の年末商戦ぐらいになると思われる。

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