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3D映画を楽しむために業界が考えるべきこと(2)本田雅一のTV Style

» 2010年04月30日 16時39分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 別媒体の記事になってしまうが、「3Dのプラズマは、デュアルスキャンになるので、従来の2Dパネルに比べてコストアップ要因を持っている」と書いたところ、パナソニックの方に、「それが誤解を招くのでは」との指摘を受けた。

 筆者としては、“液晶に比べてプラズマは高価”と書いたつもりはなく、単に“2Dのプラズマより高価”という意図だったのだが、やはりプラズマ対液晶という対立の構図を描く場合には、プラズマがデュアルスキャンであることを“液晶よりも高価”という結論に結びつけられる可能性も、確かにあるのかもしれない。

 良識ある読者の方なら先刻承知だろうが、パネルのコストはイコール製品の価格ではない。製品の価格とは、製品の価値(バリュー)に対して支払うものだから、価値がないものなら、原価割れで売らざるを得なくなってビジネスは破たんする。逆にコストは安くとも、価値を高く保てるならば製品を高く売ることができる。ブランド物の化粧品などが代表的な例だろう。

 一方、コストは生産者側にとっては重要な意味を持つ。1000円の価値を持つ商品を作るとき、500円で生産できるのか、250円で生産できるのかでは、粗利が単純にいっても1.5倍違う。必要な経費などを差し引いた最終利益でいえば、もっと大きな差になるだろう。

 プラズマと液晶は、もともと生産コストに関連した特徴が全く異なるので、これを単純に比較することにあまり意味はない。それは3Dになっても同じだ。このようなことを書くのは、何もパナソニックに上記の指摘を受けたからではなく(もちろん、それはきっかけになっているが)、生産コストと製品の価格に関して誤解が多いと思うからだ。生産コストが下がれば売価が下がることもあるが、必ずしも完全にリンクしているわけではないことは、他業種の製品を見ても明らかだろう。

 3Dプラズマは、2Dプラズマよりコストアップの要因を持っている。パナソニックは正式に外への発表は行っていないが、2Dのプラズマパネルがすべてシングルスキャンなのに対して、3Dプラズマパネルはデュアルスキャン化して、画素書き換え情報の書き込み速度を上げ、3D化で階調数が減じてしまう現象を避けている。

 では、液晶パネルのほうに3D化によるコストアップ要因がないかといえば、そんなことはない。これまでに、"液晶テレビは4倍速対応ならば比較的容易に3D化できる"と書いた。言い換えれば、2倍速パネルでは3D化できないわけで、こちらも2倍速以下のパネルに対してはコストアップになる。

 また、原理的にはプラズマの方が3Dの質に関して圧倒的に有利なので、なかなか製品価格へとつなげることができないジレンマは液晶側の方が抱えているといえるかもしれない。1月の「2010 International CES」で見た時には、サムスンの液晶も比較的質の高い3D映像を見せていたが、実際に製品化されたもの(北米市場)では、かなり質が落ちてしまっているようだ。

photo 写真はパナソニック社内で試聴したときの環境。外光が入らないよう、カーテンを閉め切っていることが分かるはず

 ただし、プラズマの3Dが液晶に比べて優れているということを、きちんと訴求できていないパナソニックにも問題はある。現在は1社しか発売していない、店頭でも注目されている状況に関わらず、“プラズマが3Dで良い”という特徴を見せていないどころか、店頭では“プラズマは暗くて3Dが見にくい”という悪評に繋がり兼ねない展示環境になっているからだ。

 量販店の入り口近くの特等席に陣取り、明るい場所で、しかも明るい映像を3Dで見せる。プラズマは同時にすべての画素が明るく光ろうとすると、面全体の明るさが下がってしまう特性を持っている。簡単にいえば、黒バックので暗部が沈み込んだシーンでは、白も輝くような輝度が出るが、背景が真っ白だと白の輝度が下がる。

 3D VIERAのデモ映像は、比較的明るいシーンが多く、その上に自宅環境ではほとんどありえないほど明るい場所で3Dメガネを通じて見せているのだから、暗く感じるのは当然のことだ。もちろん、一般的なリビングルームなら、明るさの問題はない。

 せっかく他社に先行して良い質の3Dテレビを出したのだから、自ら悪評を呼ぶような展示は控えた方がいい。これはパナソニックだけの問題ではない。せっかく注目されている3Dの分野で、誤解を産む展示方法は業界全体の発展のためにならない。

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