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iPadの使い道(中編)本田雅一のTV Style

» 2010年06月25日 11時42分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 前回、iPadの日本における発売日に、日本民間放送連盟の広瀬道貞会長が、「われわれにとってみれば緊張すべき状況を迎えた」と話したことに触れた。広瀬会長がiPadに対して警戒感を持った主な理由は、iPadがテレビ放送の価値を相対的に下げると感じたからだ。広告収入の激減で収益性が急速に下がったとはいえ、テレビはいまだにメディアの王様であり続けている。

photo 「iPad」

 視聴率1%あたりの視聴者数はおおよそ120万人だそうだ(あくまでも計算上の話ではあるが)。視聴率10%のテレビ番組は1200万人もの人が見ていることになる。もちろん、これは計算上の数字なので、実際に何人が見ていたのか正確には分からない。

 とはいえ、計測の精度に多少のブレがあるとはいっても、雑誌やWebサイトがいくら束になってかかっても、テレビの視聴者数にはとても届かないことは誰もが想像できる。なんだかんだといっても、テレビ番組中に行われた発言の影響力の大きさは、おそらく多くの人が考えているより遙かに大きい。

 とはいうものの、その王様の広告的な価値は下がり続けている。視聴率はどんどん下がり続けているし、デジタルレコーダーで簡単に飛ばし見ができるようになったことも大きい。昔はなんとなく暇だからテレビをつけっぱなしにして、ダラダラと見続ける人が多かったのに対して、今は見たいテレビだけを選んで見ている人が多い。

 CMを飛ばし見したいというニーズの高まりも、そうしたテレビ番組の見方の変化による影響も大きいのではないだろうか。番組の中身は見たいが、それ以外の時間は短縮してしまい、余った時間を他に使いたい。さまざまな余暇の過ごし方がある中で、限られた時間の使い方として無駄な部分はカットしたいというのが視聴者側の本音だろう。

 しかし、本当に面白いテレビ番組があるならば、自分の都合とペースで(他人が勝手に決めた時間割通りにテレビの前に張り付くのではなく)見たいとは誰もが思う。YouTubeやニコニコ動画などは、まさにそのためのサービスだ。面白そうな映像を探して積極的に見るのだから、実は宣伝効果としてはなんとなく見ているテレビよりも質が高いともいえる(ただし視聴者の絶対数は違う)。

 この連載の中で以前、今後はテレビの楽しみ方が時間をかけて変わっていき、もっとパーソナルな楽しみ方をする人が増えるだろうと書いた。テレビを見るための窓(ディスプレイ)は各部屋に分散し、あるいはiPadやiPhoneなどもその中の1つとして溶け込んでいく。そうなってくると、画一的な内容の番組を全国ネットで流すよりも、自分で積極的に選んで映像を楽しみたい人たちの、もっとパーソナルで時間の短いコンテンツを提供する方が、番組を見る相手のステータスが解る分だけ広告的、マーケティング的な価値は高くなる。

 もちろん、それぐらいのインパクトじゃ、テレビ局の存在の大きさは変わらないだろう。たとえ変化したとしても誤差範囲だ。だからテレビ局は、手は付け始めているものの、インターネット向けの映像配信には及び腰だ。しかし、これからは変わっていくかもしれない。"iPadのようなもの"を持っている人たちを、別の業界に勧誘する口実を作らせる利点はないからだ。

 以前にも連載の中で書いたことがあるが、欧米のテレビ番組は放送後(数時間後、あるいは翌日)にはインターネットから視聴できるものも多い。広告宣伝費で作られているものがほとんどなのだから、ケチケチせずに見せてしまった方が、テレビ局にとっては得だからだ。例えば、連続ドラマなら見逃した回をインターネットで見ることができれば、また次も見ようと思うだろう。

 iPad向けにも米テレビネットワークのABCが、彼らの制作しているテレビドラマを見せるためのアプリケーションを出しているほどだ。単なる映像ビューアーソフトなので技術的に凄いというわけではない。しかし、手元の操作1つでインターネットから”見たい映像だけ”が降ってくるのだから、初めて経験するとかなり新鮮だ。

 日本のテレビ局もこの世界に入ってくれば、iPadの有益度もさらに上がってくるのだが、おそらくそれは何かが大きく変わらないと難しいだろう。せっかく視聴者は「好きな番組を選んで見ている」という、かなりテレビを見ることに対して真剣味のある人たちがいる状況ならばなおさらだ(以下、次回)。

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