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音楽シーンを変える、B&W「800 Diamond」の衝撃麻倉怜士のデジタル閻魔帳(1/2 ページ)

» 2010年07月25日 17時54分 公開
[ 聞き手:芹澤隆徳,ITmedia]

 1月の「2010 International CES」で全世界に発表されたB&W(英Bowers&Wilkins)「800 Diamond」シリーズ。人工ダイヤモンド振動板のドーム・ツィーターを5モデルに搭載したことなどで注目を集め、発売から現在に至るまで品薄状態が続いている。先代800シリーズに比べても「圧倒的」に良くなったという800 Diamondシリーズについて、AV評論家・麻倉怜士氏が熱く語った。

——800シリーズは、数あるB&Wのスピーカーの中でも、単なるフラグシップにとどまらない評価を受けています

photo AV評論家・麻倉怜士氏

麻倉氏: 世の中には、“リファレンス”と言われるスピーカーがあります。米国ならJBLの「Project」シリーズですね。これが時代を変えると言われています。古くは「PARAGON」(パラゴン)、そして「EVEREST」(エベレスト)、「K2 S9500」「K2 S9800」と続き、2年前に出た新しいEVERESTと「K2 S9900」がそれにあたります。ここ(麻倉氏宅の試聴室)にあるのはK2 S9500ですね。欧州では、それは明らかにB&Wの800シリーズなのです。

 800シリーズは、B&Wのトップエンドであり、いわばスピーカーシーンの“王様”といえるでしょう。クラシック音楽の制作では多くの場合、このシリーズが使われます。スカイウォーカー・サウンド、アビー・ロード・スタジオなど多くのレコーディング・スタジオがモニタースピーカーとして採用しています。国内の音響メーカーも、音作りや検証に800シリーズを用いているケースが非常に多く、その意味では800シリーズが音楽シーンを動かしているといっても過言ではありません。そんな名シリーズがフルモデルチェンジするというのですから、オーディオ業界は上へ下への大騒ぎでした。

 800シリーズは、1979年の801に始まり、1998年には有名なノーチラス800シリーズ、2005年にはツィーターをダイヤモンドに変えたDシリーズが出ました。いずれもスピーカーの歴史に大きな足跡を残しています。とくに他社に影響を与えたのは、1998年のノーチラス800で、ノーチラスの研究開発の成果により、エンクロージャーの形をそれまでの角形から流線型に変わりました。スピーカーでは“表皮効果”といって、音が表面を伝って後ろに流れますが、角形ではそこで渦巻き現象が起きてスムーズに音が聞こえないことを発見したのです。現在は流線型のスピーカーが増えていますが、それもノーチラス800シリーズの影響と言っていいでしょう。

 B&Wがもっとも特性の良いツィーター用振動板として人工ダイヤモンドを最初に使ったのは2005年です。そのときはダイヤモンド振動板の「D」とチタンの「S」というモデルがありましたが、やはり音は断然違う。今回は、そのダイヤモンド振動板をツィーターに全面的に採用しました。

 800シリーズには800から805までの6機種があり、800が一番大きくて、数字が大きくなるほど小型になります。今回は801を除く5機種がフルモデルチェンジしました。唯一変わらなかった801は、38センチ径のウーファーを1つ搭載したモデルで、非常に量感のある低域を再生できるスピーカーでした。

photo 800シリーズの新しいラインアップ

麻倉氏: さて、モデルチェンジのポイントは3つ。まず、5モデル共通で25mmダイヤモンドドームツィーターを搭載しました。2つめに、ツィーターの磁石を従来の1つから4つに増やし、星形に配置して磁束密度を向上させました(クアッド・マグネット磁気回路)。3つめは、ウーファーのマグネットに同社としては初めてネオジウムを採用したこと。ネオジウム2つを対照的に配置しています。

 ネオジウムマグネットは、他社では1990年代から採用していますが、B&Wはすぐに飛びつくことはありませんでした。今回採用した理由は、ダイヤモンドツィーターで上の周波数(高域)特性とレスポンスが飛躍的に改良されたため、高域のスピードアップに対してネオジウムマグネットで低域の駆動力を増してバランスを取る必要があったことです。なお、ミッドレンジの振動板にデュポンのケプラー、ウーファーはカーボンファイバーを採用している点は従来と同じです。

 中でも注目は、やはりダイヤモンド振動板でしょう。B&Wは長年に渡ってアルミニウムのドーム・ツィーターを採用してきましたが、ダイヤモンド・ツィーターと組み合わせるとどうなるのか? 実際に聴き比べてみると、これが大違いでした。全帯域に渡って音の充実度といいますか、密度感が非常に高くなっているのです。

 それでは、主なモデルを解説していきましょう。

805 Diamond

photo 805 Diamondは、2Wayバスレフ型のブックシェルフ型スピーカー。価格は29万4000円(ローズナット/チェリー)、31万5000円(ピアノ・ブラック)

麻倉氏: 805 Diamondは、800シリーズの中で最も低価格なブックシェルフ型です。従来機「805S」はアルミツィーターを使用していました。とてもバランス良く、無理なく耳になじむ音で、ブックシェルフジャンルにおける定番の地位を獲得していました。とても良かったのですが、新型は随分変わりました。

 結論から言うと、弱音再生の表現力がすごく向上しています。強い音をはっきり、くっきり出すことにより、音楽の中でもニュアンスが含まれている静かな音を表情豊かに再生するのはとても難しい。その表現力が圧倒的に良くなったので驚かされました。

 音楽、とくにクラシックは演奏家が楽譜からどう表現するかを研究し、解釈を加えて演奏にニュアンスを込めていくわけですが、そうした思いや音の表情と言いますか、私的に言いますと情緒量の再現性がすごく上がりました。

 私がよく聞くJennifer Warnes(ジェニファー・ウォーンズ)のボーカルでも、彼女のタイトで非常にツヤのあるクリアな声を情報量と情緒量豊かに再生してくれました。その音には、まるで質の良いゴムまりのような応答性の良い弾力感を感じました。

 一方、大きな編成の曲はモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」(コロンビア交響楽団、ブルーノ・ワルター指揮)のBlue Spec CDで試聴しましたが、繊細なディティールを描き、情緒性や雄大感を感じます。前のモデルも良かったのですが、弱音の細やかさ、強い音での弾力感など、ダントツに良くなりましたね。値段も従来の倍くらいになっていますが、パフォーマンスは倍以上です。ここまでの音がディスクに入っていたのかと、改めて驚かされました。

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