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ホンモノのテレビは疲れない本田雅一のTV Style

» 2010年10月18日 23時13分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 先日、「CEATEC JAPAN 2010」が開催され、例年と同様に多くの来場者を集めた。例年、CEATECでは未来への示唆に富んだテレビ……というよりは、映像ディスプレイという方がいいだろう……が登場してきたが、今年、将来を暗示するような製品があったかというと、少なくともディスプレイ方式に関する展示はなかった。

「CEATEC JAPAN 2010」の展示会場

 一方でインターネットとテレビ、家庭内ネットワークの中のテレビといったテーマでの提案は多かった。東芝の「レグザ Apps コネクト」、パナソニックの次世代インターネットテレビ、CEATECでの展示はなかったがソニーのGoogle TV、それに海外でのインターネット経由での映像配信サービスなどを見る限り、一時的にはネットワークをいかに活用するのかを模索する方向でテレビは進化の道を求めるのかもしれない。

東芝の「レグザ Apps コネクト」で提供される「RZコマンダー」のタグシェア画面。ほかのユーザーが作ったタグリスト(名場面集など)をネットワーク経由で取り込み、利用できる(左)。パナソニックの次世代インターネットテレビは、利用できるサービスを増やし、かつUIをカスタマイズできるようになる点が特長(右)

 しかし、インターネットにつながったからといって、テレビの本質(映像を映し出すエンターテイメントの窓)が変化するわけではない。テレビ上に複雑な手順を含むユーザーインタフェースを通じて使わなければならない機能が流行したことは、おそらく過去に一度もない。ユーザーが求めていないからだ。

 残念ながら、今年は画質、ディスプレイの性能に関しての将来像は示されなかったが、進歩が止まっているわけではない。おそらく来年は、20〜30インチ程度の中型有機ELテレビが登場するだろう。残念ながら日本のメーカーではない可能性が高いが、1つのメーカーが開発を成功させると、さまざまな理由からほかのメーカーも同じように作れるようになるものだ。数年のレンジで見ると、30インチ以下ならば有機ELテレビは拡がりを見せる可能性が高い。

 有機ELテレビはコントラストが高く、またデモ効果を狙ってかメリハリのある絵作りをして展示しているケースが多いので、ちょっと刺激的な映像と感じている方もいるかもしれない。しかし、本来、高画質なディスプレイは目を疲れさせないものだ。目が疲れるのは、それが自然な映像ではないからである。

 実際、一般的な風景を一日中眺めていたところで、目が疲れるなどということはない。究極の自然な映像表現は現実そのもの、とするならば、画質を高めていけば目は疲れないということになる。

 では、自然な映像とはどんなものだろうか? フルHDが4K2Kになり、さらにNHK技研のスーパーハイビジョンになれば、映像はより自然に見えるのだろうか?

2008年のNHK技研公開で展示されたスーパーハイビジョン用H.264符号化システム。スーパーハイビジョンは7680×4320ピクセルの解像度を持つ

 もちろん、解像度が高まれば、よりリアリティが増すことは間違いない。4K2Kで上映されるデジタル映画を見ると、なるほど通常のデジタル上映よりもナチュラルな表現と感じることが多い。しかし35年の歳月をかけてフルHD化を達成した今、別の切り口で性能を高めた方が、映像の質は高めやすい。

 例えば昨年のCEATECでは、ソニーが120Hzの高フレームレートカメラで撮影した映像を披露したが、あれなどは4K2K化するよりもリアリティの向上に貢献し、何より見た目に自然で違和感なく受け入れることができた。

 さらに最近、別の興味深い映像を見ることができた。なんのことはない、ステレオスコピックの3D映像なのだが、三角形に組んだミラーに左右独立した映像を映し、ミラーをのぞき込むことで立体視する、たった1人だけしか楽しめない高品位な検証用3Dディスプレイである。左右の映像はミラーで光軸を分割し、別々のディスプレイで表示しているので、クロストーク(左右像の混濁)は一切発生しない。

 すると、3D映像にはつきもの(3Dテレビだけでなく、劇場の3D映画を含む)の、疲れにも似た違和感をまったく感じることがなかった。もちろん、クロストークなしであっても、ヒドイ3D映像ならば疲れるのだろうが、一般的な3D映像ならば驚くばかりのリアリティーなのだ。

 2D/3Dに限らず、ホンモノの映像、画質を求めていけば、もっと疲れないテレビ、ディスプレイを作ることができるのだろう。自然に遠くを眺めたときと同じようなリラックスした感覚を得るまでの道のりはまだ遠そうだが、それだけ進化の余地がある、ということなのだろう。まだまだテレビ開発のエンジニアが旅すべき道のりは長そうだ。

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