ITmedia NEWS >

「CEATEC JAPAN 2010」総括(2)、麻倉怜士的“CEATECベスト3”麻倉怜士のデジタル閻魔帳(1/4 ページ)

» 2010年10月21日 16時55分 公開
[聞き手:芹澤隆徳,ITmedia]

 前回は「CEATEC JAPAN 2010」の注目展示を一気に紹介した。今回は、CEATEC JAPANのみならず、その周辺で見つけた新しい技術や提案を含めてAV評論家・麻倉怜士氏が選んだ“ベスト3”を発表。それぞれの項目を掘り下げ、詳しく解説してもらった。

第3位、BDAのパネルディスカッション

麻倉氏: 第3位は、BDA(Blu-ray Disc Association)の基調講演として行われたパネルディスカッションです。BDAがパネルディスカッションを行うのは6回目で、規格争いのころは、まさに“戦争モード”。観客席の最前列にHD DVD陣営の方々が並んでいたりして、とても緊迫感があったものです。昨年は行われなかったので、2年ぶりの開催ということになります。

photophoto BDAのパネルディスカッションで司会を務めた麻倉氏(左)。キネマ旬報社の稲田豊史氏(右)

 さて、今年は技術面よりもマーケティング寄りの話が多かったのですが、中でも抜群に面白かったのが、キネマ旬報社の稲田豊史さんと映画作家の大林宣彦監督のスピーチでした。

 稲田さんは、ユーザー個人個人がどう思ってBlu-ray Discに接しているのかを解説してくれました。「DVDナビゲーター」(キネマ旬報社刊)という雑誌の企画で、ヘビーな映画ファンやライトユーザーの話を聞いたところ、とにかく“体験”が不足していることが分かった。ライトユーザーは、DVDとの画質差がよく分からず、またレンタル店は品ぞろえが貧弱。ショップ店員も満足な視聴環境を持っていないため、満足な説明が行えない。しかし実際にBDを体験すると、ライトユーザーの方々もやはり「すごい」と感じる。そうした経験が必要だと指摘しています。

 一方、ヘビーな映画ファンも意外とBDタイトルを購入していないようですね。ある映画ファンは、BDに対して「DVDから買い替えるほどではない」し、お目当ての旧作がBD化されているかも分からないので手を出していなかった。ある日、BDの画質を目の当たりにしてからは、すごい勢いでBDタイトルを買い始めたそうです。とにかく経験や知識が不足しているので、BDの「魅力の伝え方」を工夫するべきという提言でした。

 それから、ヘビーユーザーはBDタイトルのパッケージがプアだと不満を持っているそうです。ジャケットが貧弱だったり、豪華バージョンがDVDだけで発売されたりと、コレクション性の高いBDタイトルが手に入らないことも問題だと稲田さんは指摘しました。

photo 映画作家の大林宣彦監督

 大林監督は、事前に「キネマ旬報」の取材でうちのシアタールームに来て、3本ほど映画を鑑賞したところ、びっくりするほど感動していらっしゃいました。BDの高画質に「尾道の小さな小屋(映画館)で映画をみたときの感動がよみがえった」といって、うちのスクリーン前の板の間に寝転がってBDを見ていたんですよ。よほど感動されたのでしょう。

 パネルディスカッションでは、そのときの思いを話してもらいました。中でも印象に残ったのは、BDでパッケージメディアが「文明の利器」から「文化の道具」に変わったという話です。

 VHSからDVDへの変化は、文明的な文脈(技術の進歩)で画質が良くなった。文化を標榜する自分(大林監督)には、それはそれで十分で、その延長にあるもの(=BD)はいらないと思っていたのだそうです。しかし、実際にBDの画質を見たところ、文明の極致だと思っていたものが、実は文化の極致だった。非常にフィルム的で、作り手の思いがこもった映像が出てきたところに感動したと。大林監督は、「デジタルに目覚めた。撮りたいという気持ちがわいてきた」と話していました。

 BDを見て、作品の素晴らしさにもう一度気付くことができる。われわれが昔から潜在的に考えていたことだと思いますが、はっきりと喋っていただいて、とても良かったと思います。

 一方、大林監督は、「きれいに見えすぎることはどうなの?」とも話していました。例えば、「風と共に去りぬ」の有名なタラの家をバックに「土地を大切にしなさい」とお父さんがスカーレットに諭すシーンでは、オプチカル合成が不十分で、明らかに合成と分かってしまう部分があります。それがハイビジョンのリストア版ではきれいに修正されている。また、東宝の特撮では、もとのフィルムでは飛行機を保持するワイヤーが見えていたのにBD版ではきれいに消されていたそうです。

 昔の特撮では、飛行機を逆向きにつり下げ、カメラを天地逆にして撮影するなど、とても苦労して撮影していました。そこにも作り手の思いやこだわりが詰まっているのだから、あまりキレイにしすぎて、それも見えなくなってしまうのが気になる。そうした部分も残してくれる“本当の文化”であってほしい、というお話でした。会場は感銘に包まれていました。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.