ITmedia NEWS >

麻倉怜士が直視した東芝の新興国戦略「メイドインジャパン」から「クオリティージャパン」へ(1/2 ページ)

» 2010年12月22日 12時53分 公開
[麻倉怜士,ITmedia]

 12月15日、中国・北京にある「北京中国大飯店」(China World Hotel)にて、東芝が中国市場に本格的に乗り込むという発表会が行われた(→目標は4倍、東芝が液晶テレビで中国市場に本腰)。私は発表会をつぶさに見て、さらに東芝ビジュアルプロダクツ社映像第二事業部長の徳光重則氏にインタビューする機会を得た。そこで東芝が進めている新興国戦略に関する重要な話を聞くことができたので報告したい。

「北京中国大飯店」で行われた発表会の様子。東芝ビジュアルプロダクツ社映像第二事業部長の徳光重則氏があいさつに立った

 今回の発表会は、非常に意外なものだった。なぜなら、これまでの常識では、先進国向けに画質や機能面に秀でた高級機を供給し、一方の新興国向け製品では、その国のニーズに合わせたと言えば聞こえはいいが、ローコストな製品を投入するのが日本メーカーの常識だったからだ。

 ところが、今回はほとんど「CELL REGZA」と同じ――CELL REGZAから“全録”とネット接続などを除いた――「55X1000C」を投入するというのである。55X1000Cは、CELLと同じ処理をハードウェア(LSI)で実現する新エンジンを搭載した超高級モデルである。

新エンジンを搭載した上位モデル「55X1000C」

 しかも、発表会の内容も中国市場向けとしては型破りなものだった。東芝の画質に関する“こだわり”を述べ、いかに新製品がコントラストが高く、画質が良いかを比較してみせた。つまり、徹底的に画質訴求に突っ込んだものであった。発表会が終わってから何人かのディーラーに話を聞いたが、何度も“こだわり”という言葉が出てきたことに驚いていた。それは日本での発表会でも、これほど画質について触れないだろうと思われる勢いだった。

 CELL REGZAといえば、2009年の秋に発売され、その年は専門誌のランキング企画を席巻するほど、日本国内では圧倒的に高い評価を得たモデルである。そのDNAを受け継いだモデルをあえて中国市場に投入する目的は何か。

 徳光氏は開口一番、「ブランディングです」といった。「現在、東芝は中国市場ではとても少ないシェア(2%前後)しかありません。これから中国を本格的に開拓するにあたり、東芝が良いテレビを作っていて、その画質の高さが日本市場で高く評価されていることを、中国の消費者にお知らせすることが、戦略的に極めて重要だと考えました」(徳光氏)。

 東芝はこれまで、先進国の市場を重点志向していたが、日本のエコポイント終了(2011年3月予定)や欧米の競争激化を見ると、今後、明るい展望を描くのは難しい。しかし新興国では、薄型テレビの比率がまだ10〜20%と低く、これから急激な成長が見込まれる。

新エンジンによる画質の向上について、詳細に説明する徳光氏

 一般的に、新市場の開拓には2つの方法がある。1つは大衆向けの普及品を広め、その後に中高級製品を出してイメージを上げる“デパ地下作戦”。デパートの地下に食品を求めてやってきた人々を徐々に上の階に誘導するという形にメタファーできる。

 そして、もう1つが“展覧会作戦”。最上階で催し物を行い、人の流れを作り、下の階で商品を買ってもらう。実際には高級機である55X1000Cが大量に売れるわけではないだろうが、超高画質モデルを全面に出してブランドイメージを確立するという点で、東芝のアプローチはまさに“展覧会作戦”にあたる。これは「シャワー効果」という言い方もある。

 「意外に、といっては失礼かもしれませんが、新興国では先進技術に対してすごく高いニーズがあります。欧米では良いものを出してもなかなか認識されませんが、中国をはじめとする新興国は違います。われわれの調査では、先進国以上に高級なものが求められていることが分かりました。まず高級志向のユーザーに認知してもらい、その影響が幅広いユーザー層に波及することを期待しています」(徳光氏)。

 高級品でブランドイメージを確立すれば、シャワー効果で大衆向けの製品にも波及するはずだ。発表会場で、展示機の画面に大きく「策略」と表示されていたのを見て、私はなるほど中国語では「戦略」を「策略」と書くのかと感心していたのだが、これはまさに“策略”である。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.