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3Dテレビの進化と分化――「2011 International CES」総括(2)麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/3 ページ)

» 2011年01月24日 16時50分 公開
[ 聞き手:芹澤隆徳,ITmedia]

韓国メーカーは偏光方式に本気

――海外メーカーの動向はいかがでしたか?

麻倉氏: 大きなトピックとしては、韓国メーカーが、いよいよ偏光方式に本格的に乗り出したことが挙げられるでしょう。

 LGエレクトロニクスはCES開幕前の記者会見で、「Cinema3D」という名称をかかげ、大々的に偏光方式へ切り替えることを宣言しました。「フィルム・パターンド・リターダー」と称しています。彼らは、液晶シャッターメガネは重たく、フリッカーも出て、高コストであると指摘しています。対して、偏光方式のメガネならノンフリッカーで、しかも軽くて安価というわけです。

 Cinema3Dは、液晶画面の表面に1ラインごとに偏光方向を変えたフィルムをはり付けたものです。当然、垂直方向の解像度が半分になり、画質は劣化します。試作機を見たところ、垂直視野角も狭く、画面反射も大きかったので、現状ではこれでいいのかと、クエスチョンマークを付けざるを得ません。解像度不足を補うため、最初から高解像度のパネル(UHD)を使ってアップコンバートした3D映像を表示する展示もありましたが、これもアップコンバートの性能が“いまふたつ”という印象でした。

 一方、サムスンの「RDZ」は素晴らしいものでした。RDZは、Real Dとサムスンが共同開発したActive Retarder(アクティブ・リターダー)方式の3D技術です。240Hz駆動の液晶テレビの表面にもう1つ、偏光生成用の液晶層を設け、瞬時に右偏光と左偏光を切り替えながら表示します。解像度はフルHDのままで、偏光方式ながら視野角も広いのが特長。サムスンなので液晶パネルはVA方式ですが、液晶パネルの視野角をそのまま3Dで生かせるといった印象でした。

サムスンは、CES会場でRDZの展示は行わず、近隣のアンコアホテルにプライベートスイートを設けて限られた人だけにRDZを見せた

 しかもメガネはパッシブな偏光メガネですから、軽くて安価に製造できます。まさに理想的な3D技術といえるかもしれません。もちろん液晶層を1枚増やすのですからコストアップはあり、売価で200ドル程度の上乗せになるそうです。でも「液晶シャッターメガネのテレビだって、後からメガネを追加しますね。それとほぼ同額ですよ」とサムスン電子の担当者は言っていました。

 サムスンは、液晶シャッターメガネの軽量化にも力を入れています。現状は37グラムほどで、一方の偏光メガネは20グラム程度のため、かなり近づいた印象です。また、現在の3Dメガネが重く感じられるのは、電源や回路が前方に偏っているからで、同社は後ろの耳当ての部分に電源などを入れて軽くするアプローチを採用しています。技術開発として、理想的な3D視聴環境をしっかりと考えているなと感じました。もし液晶シャッターメガネが20グラムになったら、アクティブ・リターダーはいらなくなるのかという気もしますが。

――ちなみに、CESの展示会場でもっともきれいな3D映像を見ることができたのは、どこのブースですか?

麻倉氏: 一番感動したのは、ソニーの“3Dグラストロン”ですね。2枚の有機ELパネルを使ったヘッドマウントディスプレイ試作機のことです。“3Dグラストロン”というのは、私が勝手に命名しただけで、ソニーが言ったわけではありませんが、“500人規模のシアターの後ろの席で気持ちよくスクリーンを眺めるような大画面”というコンセプトは、まさに往年の「グラストロン」です。AVファンの皆さんには理解してもらえるのではないでしょうか。

ソニーブースで“3Dグラストロン”(勝手に命名)を試す麻倉氏

 そもそも3Dテレビは、1つの画面に右目用と左目用という2つの映像を表示させるところに絶対的な無理があります。しかし、3Dグラストロンは2つの目で見る映像を2つの有機ELパネルに表示するため、構造上クロストークやフリッカーといったノイズがまったく発生しません。19世紀のステレオスコープと同じ、実に理にかなった方式で、それが高解像度の動画になったという印象です。1つの理想形といえるでしょう。

 以前の「グラストロン」は2Dで、画素不足や光学的なひずみもあって画質はあまり良くありませんでしたが、今回は有機ELで解像度は十分。脳に負担が少なく、自然な3D映像を見せてくれました。心地よく、ステキな体験でしたね。ソニーには、ぜひ“3Dグラストロン”として売り出してほしいと思います。

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