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SACDでよみがえる戦時中の名演奏麻倉怜士のデジタル閻魔帳(1/3 ページ)

» 2011年05月20日 00時02分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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 近年、オーディオファン、音楽ファンの間で再評価されているSACD。2009年にTEACのエソテリックブランドから発売された英DECCA(デッカ)の名盤タイトルがヒットして以来、ユニバーサル ミュージックの「SA-CD 〜SHM仕様〜」など、過去の名演奏を最高のパッケージとして復活させる動きも活発化している(→SACDの復権、BDオーディオの登場)。中でも最近、音楽ファンの間で脚光を浴びているのが、今年1月にEMIから発売されたクラシックのシリーズだ。クラシックにも造詣の深く、津田塾大学でクラシック音楽を教えているAV評論家・麻倉怜士氏にその魅力を語ってもらった。

――SACDを再評価する動きが続いています

 CDが右肩下がりを続け、音楽配信も前年比で5%ほど下がるなど音楽市場は必ずしも良い状況とはいえませんが、クラシックの名演奏を収録したSACDは意外なほど好調なのです。


 もちろん、もともとクラシックは売れても数千枚というレベルですから、販売数量が劇的に増えているわけではありません。しかし、例えば昨年夏に紹介したエソテリックブランドのSACDは今や23タイトルを数え、それぞれ3000枚から4000枚をプレスして、すべて完売しました。2009年の年末に発売されたワーグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」全曲(サー・ゲオルグ・ショルティ指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)などは、5万8000円もするのに限定1000セットが瞬く間に売り切れました。

 SACDは、DVD-AUDIOとともに「次世代CD」と呼ばれました。CDを作ったソニーが1999年に立ち上げたのがSACD。それに対抗したのが東芝/松下電器産業(現・パナソニック)が中心になって開発したDVD-AUDIOです。どちらもCDのデジタルくささを止揚するという目的でしたが、結果としてCDのマルチビット方式を発展させハイレゾを実現したDVD-AUDIOは亡び、マルチビットを否定し、極限までアナログ的な処理を行う1ビット方式(DSD)を採用したSACDがサバイバルしました。いや、一度はほとんど滅亡に近いところまで行ったのです。

 当初は、ソニーを始め、ユニバーサルやEMIなどもリリースしていましたが、プレーヤーの普及が思うように進まないことから、相次いで撤退。その流れを変えたのが、昨年5月からリリースを開始したユニバーサルの「シングルレイヤーSACD」です。2004年に一度は撤退したユニバーサルでしたが、今ではシングルレイヤーSACDを150タイトルまで増やすなど、内容・タイトルともに充実してきました。制作側は2度目のSACD参入なので、『これが最後のパッケージメディア』と思って徹底的に音質にこだわったといいます。いかに音質にこだわるかというと、マスターが良くなければ商品にしないそうです。

麻倉氏所蔵のシングルレイヤーSACD

 例えば、ビル・エバンス作品がリリース予定と発表されていましたたが、取り寄せたマスターがPCMだったので、再度DSDでのやり直しを本国に依頼したといいます。DSDマスター、もしくはアナログマスターのみで、PCMは受け付けないのです。技術的にも、人智の限りを尽くし、考え得る最高の音にするために、すべての努力を費やしたそうです。

 それは……、

  • 1、SACDプレーヤーでしか再生できないというリスクを犯しても、CD層のないためにレーザー光が正しく反射する単層(シングルレイヤー)にした
  • 2、高音質CDで評価されたSHM基材(レーザー光反射で迷光発生が抑制される)を使う
  • 3、ソニーが開発した緑色コーティング(音匠仕様)を採用。これも迷光対策
  • 4、ロスレス圧縮をせず、完全非圧縮を貫く

 中でも圧倒的に音質に効くのは非圧縮の件です。ロスレスは符号は完璧に復元されるといっても、プロセスにリソースを費やすので、伸びやかさや余裕感が断然違うということです。

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