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“ノット”や”もっと”について考える、いくつかのお話(その3)本田雅一のTV Style

» 2012年04月23日 13時30分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 先々週先週と“ノット”こと「NOTTV」(ノッティーヴィー)について話してきた。要点をまとめると……

  • モニター用端末のソフトウェアに不具合があり、バッテリーが急激に減る問題があった(解決済み)
  • このためモニターユーザーからの有効なフィードバックやTwitterによるリアルタイムの絡みが不発に(これはクライアントの使いやすさも改良の余地あり)
  • 画質はモバイル向けとしてはかなりキレイ
  • 室内での受信状況は携帯電話の電波ほどではないので、場所によってかなり受信レベルが変化する
  • シフトタイムコンテンツなら、受信レベルを考えずに再生が可能だが、現時点では十分な数が配信されていない
  • シフトタイムコンテンツが再生できるため、ライブチャンネルは文字通り生放送を生かしたものが期待される


 ……といったところだろうか。もし蓄積型のタイムシフトコンテンツが十分に用意されないようならば、早晩、難しい状況になるだろう。夏には6機種のNOTTV搭載モデルが投入されると噂されている。元はと言えば、総務省の反クァルコム・メディアフローのために作られた国内特有の規格……などと続けてしまうと、話が長くなるので、対応製品が増える頃にまた機会があれば再び考えてみたい。

 で、もう1つの新しいテレビ「もっとTV」(もっとテレビ)についても簡単に触れておきたい。

新しいのに新しくない「もっとTV」

 もっとTVについて、“簡単に”しか触れない理由は、もっとTVが基本的に新しい技術ではないからだ。通信でテレビ番組を配信するサービスは、これまでも存在した。「アクトビラ」にしろ、「TSUTAYA.TV」にしろ、テレビに対して通信サービスとして映像を配信という手法は、とくに新しいことではない。テレビやレコーダーと一体化する点や、モバイル端末向けに受信アプリケーションを開発(夏に配布開始予定)という点は若干新しいともいえるが、今の市場環境を考えれば“あたりまえ”の進化であり、技術的には特記すべきことではないという印象だ。

 では、もっとTVの何が新しいのか。それは「民放キー局各社が一緒になって始める公式配信サイト」という点だ。技術的に新しいのではなく、仕組みとして新しいのでもなく、配信側の枠組みとして、民放各社が1カ所に集まったことが新しい、ということだ。

「もっとTV」で視聴できるサービス

 民放キー局が出資して……というと、”ノット”も同じだが、あちらは自ら「テレビではない」と宣言しているように、従来のテレビとは異なる放送をやっていくのがコンセプトだ。別途、新たに電波帯域を割り当てて新しい放送技術を開発していくのだから、従来の放送と同じコンテンツを流しても意味がない。

 一方のもっとTVは、「テレビをもっと楽しもう」というコンセプト。従来のテレビは時間に縛られていたが、クラウドにテレビ局がコンテンツを提供することで、テレビを見る機会をもっと増やそう、というのが基本的なスタンスだ。主導しているのはテレビ局というよりも、メディアの多様化を目指す電通だが、民放各社も最新のドラマシリーズを放送のペースに合わせて配信していくなど、“テレビ放送プラスα”としての価値を出そうと努力している。

もっとTVに対応するパナソニックの“スマートビエラ”(写真はVTシリーズ)では、リモコンの「もっとTV」ボタン1つで関連のVODコンテンツが参照できる

 個人的には、これならば大半のデジタルテレビが対応しているアクトビラに参加した方が利用者側の利点も大きいのでは? と思うが、立ち上げがうまく行かず失速したまま浮上しないアクトビラに乗るよりは、独自の座布団をもらう方が得策と考えたのだろうか。

 ただ、いずれにしろ基本的に無料で放送されているコンテンツを、“1本あたりいくら”で販売するのは難しいのではないだろうか。映画やOVAであれば、完成した作品として1本に対して対価を払うことに抵抗感はないが、録画文化が根付いている日本でテレビ番組となると、そこには何らかの工夫がほしい。今のところ、パナソニックのテレビとレコーダー(しかも最新機種)しか対応していないのもネックだ。

パナソニックのビエラおよびディーガの春モデルは「もっとTV」に対応した。写真はディーガの「DMR-BZT920」(左)とビエラの「TH-60VT5」(右)

 画質はネットからのストリーミングであり、あまり良いとはいえないが、そこはネット視聴ゆえの制限として理解はできる。ただ、それ以前のところで難しい状況を作っていると思う。せっかく新たな配信サービスを行うならば、何らかのオリジナリティーはほしいところだ。

 例えば最新ドラマの場合、1話の価格は300〜400円が設定されている。DVDを借りることができる値段だが、どうしても見たかったのに見逃してしまったのなら、払えない金額ではない。しかし、ドラマは連続している。見逃し視聴で何話かを買うごとに安くなり、最後は“1シリーズあたりいくら”の上限に達すると、シリーズ全話を見れるようになる、というのなら、ハードルは下がらないだろうか? 最初の1話(第1話ではなく、最初に買う1話)だけ無料、あるいは100円程度に設定してハードルを下げてもいいかもしれない。

 あるいは、“月間ドラマ○○本までOK”のようなプリペイドパック方式や、情報番組の特定コーナーだけを1カ月分見たいといったビデオ・オン・デマンドでなければ難しい提供のやり方もあったのではないか。私個人としては“最新ニュースパック”といったメニューで、24時間以内の各局のニュースを見放題なんてメニューがあれば利用したい。もちろん、色々考えた上でのサービス開始なのだろうが、今のところはまだどうやれば買ってもらえるのか、視聴者が楽しんでくれるかを模索しているところなのかもしれない。

 何人かの関係者に話を聞いたところでは、業界関係者が試しに買うことも多かったであろうサービス開始第一週の売上げは3万円に届かず、翌週はそれをさらに下回ったという。新規放送局の開局に比べると、桁違いに小さな投資で済むビデオオンデマンドサービスで、対応機種がまだ少ないとはいえ、少々驚きの数字だった。

 テレビ番組のプラスα、無料放送の延長線上で、お金を払いたい仕組みを作る。なかなか難しいテーマだが、そのハードルを超えなければ、日本における“テレビ・オン・デマンド”はうまくいかないように思う。

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