麻倉氏:中でも英国のB Sky B(Sky 3D)は非常に意欲的で、開会式から男子100メートル決勝、体操、水泳、バスケットボール、カヌーなど、100時間以上の3D放送を予定しています。連日、8時間をライブ放送で、また4時間のハイライト放送も行う予定です。
同局は、2010年10月に放送を開始し、毎日19時間以上も3D放送を行っています。とくにスポーツに力を入れていて、これまでに160のスポーツイベントを放送しました。視聴者数は全英で25万世帯。このように、五輪に対してはSky 3Dを始め、各国の3D専門局が大きな期待を寄せています。
またドイツ・オーストリア地域でも昨年10月からSky 3Dが放送を開始し、現在は映画、ドキュメンタリーなど毎日16時間以上放送しています。セミナーでとくに強調していたのは、プロサッカーリーグ「ブンデスリーガ」の試合。スポーツ中継における3D撮影や制作のテクニックが上がってきたという話でした。
ブンデスリーガの撮影を通じて分かったのは、やはり2Dと3Dは撮影チームを分けなければならないということ。当初は同じ場所にカメラを設置していましたが、3Dは2Dよりも被写体に近づかなければならないそうです。
麻倉氏:例えば、フィールドの全景を撮影するとき、2Dは3階席からカメラを回しますが、3Dは1階のほうが迫力が出ます。パンやズームのスピードも2Dとは変えることで、視聴者に迫力のある映像を提供できたと話していました。またイタリアの専門局は、自動車のCMで走行シーンを3Dで撮影したところ、迫力があると好評だったそうです。
米国の「3net」(スリーネット)は、IMAX、ディスカバリー・コミュニケーションズ、ソニー・ピクチャーズの合弁会社です。ソニー・ピクチャーズはマーケティングを担当し、放送するコンテンツは、IMAXやディスカバリーから調達します。2011年2月に放送を開始し、年末までに250コンテンツを放送しました。中でも評判が良かったのは、ハップル宇宙望遠鏡や南北戦争、中国紀行などを題材にした3Dドキュメンタリーでした。
これらはDirecTVを通じて放送していますが、同社のHDサービスは1900万件の契約者がいて、このうち40万件ほどが3Dで視聴している計算です。この夏のイチオシは、豪州で撮影したサーフィンのドキュメンタリー「ストーム・サーファー」。小型3Dカメラでサーファーを追尾した迫力のある映像だそうです。
韓国でもKorea HD Broadcastingが3D専門局「Sky 3D」を2010年1月にスタートしました。国内34万世帯が契約しており、2011年末時点で週に80時間の3D放送をしています。このうち52時間は米国コンテンツですが、28時間は自社制作。K-POPや伝統芸能、テグの陸上競技会の映像などを3D撮影しました。中でも面白いのはビーチバレーの3D映像で、ロシアに輸出して人気があるそうです。
また韓国にはサムスンとLGがあり、スマートテレビとの連携もユニーク。アプリとして提供される3Dコンテンツがセールスポイントになっています。イチオシは立体のK-POPだそうですよ。
このように、 世界では3D放送に対して非常にアクティブですが、コンテンツが十分かといえばそうではありません。今後は3D環境を良くして、放送を増やす必要があります。1にもコンテンツ、2にも3にもコンテンツということですね。
――放送の3Dコンテンツは、スポーツやライブ、旅番組などジャンルが限られているような気がします
麻倉氏:そうです。3D作品には、映画を除いてスクリプテッドコンテンツ(脚本のある作品)が少ない。理由は簡単で、コストがかかるからです。カメラは2D撮影の倍の台数が必要になりますし、リグもいります。ロケの際は、セットアップが大変で、それだけで2時間くらいは余計にかかるそうです。このため、スポーツやライブのように脚本なしで撮れる番組の制作は盛んですが、ドラマなど脚本のある作品は少ないのです。
しかし、状況は変わっています。miptvでは、ドラマにおける3D制作環境が整ってきたこともトピックの1つとして注目を集めていました。後編で詳しく解説していきましょう。
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