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放送の明日が分かる  “麻倉的”NHK技研公開の展示ベスト5(後編)麻倉怜士のデジタル閻魔帳(1/4 ページ)

» 2012年05月29日 00時05分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 恒例の「NHK放送技術研究所一般公開」(技研公開)が5月24日から27日に開催された。前編に続き、今後の放送・AV業界を占う全36の展示の中から、AV評論家・麻倉怜士氏が注目したものをランキング形式で紹介していただこう。

技研公開の会場で、新しいスーパーハイビジョンカメラの前に立つ麻倉氏(ただしディスプレイは4K)

第3位;スーパーハイビジョン音響制作機器

――第5位は「インテグラル立体テレビ」、第4位は「興味度推定技術を応用した番組推薦システム」でした。第3位はいかがでしょう?

麻倉氏:第3位は、「スーパーハイビジョン音響制作機器」です。ご存じの通り、スーパーハイビジョン(Super Hi-Vision:SHV)の仕様には22.2chのマルチチャンネル音響が含まれています。技研公開でも毎年、地下のフロアで地味に展示しているのですが、今回は昨年までと少し趣が異なりましたね。従来のデモンストレーションは、「こんなにスゴイぞ」というアピールが中心だったのですが、今年は22.2ch音声の番組制作や“使いこなし”にまで踏み込んでいたからです。実用化が近づいているという印象を受けました。

 例えば「小型軽量ワンポイント収音マイクロホン」は、22方向の音をたった1本のマイクで集音できます。マルチチャンネル音声は広い範囲に多数のマイクを設置して収録するのが基本ですが、それができない狭い場所でも22.2ch音響を記録できるわけです。

22.2ch音声のデモコーナー(左)と「小型軽量ワンポイント収音マイクロホン」(右)

 また「3次元残響付加装置」も新しいですね。響きのない音源に、ホール等で実測した自然な3次元残響を付加する装置というのが主目的ですが、もともと残響のある音源でも音像制御ができるそうです。これが実用化されると、“響き感”や“包まれ感”といった、3次元音響の効果を自在に制御することができます。臨場感豊かな“音の万華鏡”が楽しめるでしょう。

 使いこなしの面で注目したいのは、22.2chをヘッドフォンでも体験できる「22.2マルチチャンネル音響ヘッドフォンプロセッサー」の展示でした。そもそも、われわれの耳は2つしかないのに、マルチチャンネル音声になると臨場感が増すのはなぜでしょう。頭部伝達関数という言葉は聞いたことがあると思いますが、特定の方向からの音が耳に到達するまでの音の伝達特性を脳が感じ取って、判断しているわけです。この効果を利用すると、音源になるスピーカー(ヘッドフォンのドライバー)が2つであっても同様の効果を得ることができます

「22.2マルチチャンネル音響ヘッドフォンプロセッサー」によるヘッドフォンのデモ

――今回の展示は、中継車など空間的な制約のある場所で22.2chの音を確認できるようにするためのものだそうですが、将来的にヘッドフォンや少ない数のスピーカーで同様の効果が得られるようになれば、マルチチャンネル音響も導入しやすくなりますね

麻倉氏:これは私見ですが、SHVの音響は、視聴者を360度囲む半球状の音場を想定し、狙ったところに自在に定位できるようになることを期待したいです。例えば地球儀を音場に見立てたとき、緯度/経度のような形で指示した場所にどこでもピンポイントで定位できる仕組みを作ってほしいのです。この“360度自在定位技術は、現在ドルビーやDTSが競争して研究しています。同様の技術がSHVに入るといいと思います。

 

 もう1つ、マルチチャンネル用のヘッドフォンでは前方定位がポイントになります。マルチチャンネルスピーカーを設置したホームシアターでは、スクリーンに対して常に意図した方向から音がきこえるもの。しかし、ヘッドフォンでは顔を横に向けただけで音の聞こえる方向が変わってしまいますよね。以前、ソニーの製品でやはりジャイロを使って前方定位を実現したものがありましたが、スーパーハイビジョン用のヘッドフォンにもこの技術が入るとよいでしょう。

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