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シャープ、復活に向けたシナリオ大型液晶事業は切り離し

» 2012年06月08日 18時06分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
シャープの奥田隆司社長

 シャープは6月8日、「2012年度 経営戦略説明会」を開催して報道関係者および金融アナリストに向けて「復活に向けたシナリオ」を説明した。4月末に発表した連結決算で3760億円という過去最大の赤字を計上した同社は、電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手、中国・鴻海(ホンハイ)グループとの業務資本提携を軸に経営の立て直しを図っている。今回の発表で具体的なアクションプランを示したことになる。

 奥田社長が「復活に向けたシナリオ」の第1に挙げたのは、大型液晶パネルを生産する堺工場の安定稼働。すでに堺工場を運営するシャープディスプレイプロダクト(SDP)にホンハイグループの出資を受け入れ、生産した大型液晶パネルのうち、半数をホンハイが引き取ることで合意している。これを当初予定していた第3四半期(10月〜)から1四半期前倒し、7月から9月に生産するパネルについても引き取ることで最終的な詰めに入ったという。堺工場は、棚卸資産圧縮のために4月から生産調整を行っており、その稼働率は50%を大きく下回るレベルだったが、ホンハイの引き取り開始後は90%台に回復する見込みだ。

 また、7月にはシャープ本体から大型液晶事業を切り離し、SDPに移管する。「大型液晶を本体から切り離し、選択と集中を図る」。これに伴い、シャープの大型液晶事業本部に籍を置く約1300人がSDPに異動する予定だ。「シャープから大型液晶事業はなくなるが、鴻海(ホンハイ)との協業という新たな枠組みで生産を続ける」(奥田氏)。

中国向けスマートフォン事業を共同展開

 復活のシナリオの2つめは、コモディティ化したデジタル家電分野で戦い続けるためのビジネスモデルだ。「液晶テレビなどコモディティ化の進んだ商品分野はすでにパワーゲームになっている。技術だけで勝てる分野ではない。スマートフォン分野などを見ると、勝っているのはマーケティングや開発に特化した企業、および彼らの生産パートナーであるホンハイだ」(奥田社長)。

堺工場の稼働率(左)。中国向けスマホ事業展開(右)

 単独の垂直統合モデルをやめ、ホンハイとの密接な協力関係による“グローバルな垂直統合”を目指すシャープは、新興国を主なターゲットとし、ローカルフィット商品を展開することで商品カテゴリーと販売地域の拡大を図る。その第1弾として、2013年から中国市場向けのスマートフォン事業をホンハイと共同展開する計画。「共通のプラットフォーム、工場、調達力を生かし、競争力のある複数のモデルを開発、複数のキャリアへ提供する」という。

 一方、国内を中心とする家電事業では、従来通り、独自技術を生かした「オンリーワン商品」に注力する。これまでと異なるのは、新しいニーズに対応する新カテゴリー商品を展開すること。例えば、7月に発売するロボット掃除機「COCOROBO」(ココロボ)は、コモディティ化された掃除機というカテゴリーからシフトして、ロボット家電という別のジャンルを創出した。また、プラズマクラスターイオン発生器の搭載により、健康・環境商品という側面も持つ。シャープでは、今後も同様の“カテゴリーシフト商品”を積極展開する計画で、例えば「天井からプラズマクラスターイオンが降ってくる“照明器具のようなもの”も出てくるでしょう」と奥田氏は語っている。

オンリーワン商品の展開。IGZO液晶パネルにカメラを組み込み、自分の姿を立体視できる“デジタルミラー”などを例に挙げた

 オンリーワン商品は家電以外にも展開する。例えば、高精細化が可能なIGZO技術を生かし、医療用モニターや放送機器なども視野に入れる。「IGZOの高精細、大型(化が可能)といった特長にAQUOSで培った多原色技術を組み合わせることで、リアリティーのある画像を表示できる。またIGZO液晶パネルにカメラを組み込み、自分の姿を立体視できる“デジタルミラー”など、日用品のインテリジェンス化といった新しい分野にも挑戦する」(奥田氏)。

 ホンハイという製造パートナーを得て、新興国向けのコモディティ製品とオンリーワン商品を分けて展開できることになったシャープ。目指す企業像は“グローバルで戦える世界企業”だという。「シャープは、今年創業100周年を迎えた。国産ラジオ第1号や世界初の電卓など、ユニークな商品で評価されてきたが、ユーザー目線の商品をいち早く出すのがシャープ。今後も一歩ずつ成果を出し、業績と信頼を回復していきたい」(奥田氏)。

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