アステルのPHS 2001年戦略──ゆっくりと第4世代へ向かうアステル

ケータイ第3世代のIMT-2000では蚊帳の外となったPHS陣営。アステルも例に漏れない。しかしアステルは第4世代を視野に入れ,長期的戦略で動いている。

【国内記事】 2001年2月2日更新

 2001年,ケータイにおける最大の変化はIMT-2000のサービス開始だろう。5月にはNTTドコモのFOMAが先陣を切ってサービスを開始する。高音質,高速データ通信を実現するIMT-2000は,PHSのアドバンテージを奪い去る形だ。

 IMT-2000に対し,PHS陣営が根本的な対抗策を打ち出すことは難しい。この状況下で2001年,東京電話アステル(TTNet)はどう動くのか。

IMT-2000にはコストメリットで対抗

 「IMT-2000にはリーズナブルな通信コストで対抗できる。IMT-2000が通信コストでPHSに対抗するのは当面無理なのでは」(TTNet)

 アステルはIMT-2000のサービス開始を冷静に見ている。しかしこれは正しい認識だろう。FOMAでは最大384Kbps(下り)のパケット通信サービスを提供する予定だが,現状のパケット通信料ではとてもではないがPHSに太刀打ちできない。

 アステルは地域ごとに地上網の構成が異なるが,それぞれにメリットを生かした低コストなデータ通信サービスを提供している。TTNet(関東エリア)では「@6」サービスを提供しており,32Kbpsで1分/6円の通信料はPHS陣営でも最もリーズナブルだ。「@6もきちんと収益性を確保している。決して赤字覚悟のサービスなどではない」(TTNet)

 @6は自社ネットワークに接続したISPを利用する場合のサービス。つまりNTTへの依存部分が小さく,その分をユーザーに還元しているのだ。

ドット・iもサービスを拡充し,カラー化へ向かう

 アステルはブラウザフォンである「AJ-51」を2000年末にデビューさせている。PHSの高速,低コストなデータ通信機能を生かした現在もっとも先進的なブラウザフォンだ(ロードテスト参照)。

 現状のドット・iは,独自コンテンツよりもiモード向けの勝手サイトにアクセスできる方が魅力に映る。しかし今後はドット・i専用アクセスラインの利用で有償コンテンツの拡充も図り,ほかのケータイキャリアに負けない利便性も追求する。

 「具体的なリリース時期は決定していないが,ドット・i端末も次はカラー液晶を採用することになる」(TTNet)。アステルも端末のカラー液晶化は急務と見ている。グラフィカルなiモード勝手サイトへのアクセスは本家iモード端末よりずっと魅力的なものになるはずだ。

 現在ドット・i専用アドレスでしか利用できないメール着信通知機能もさらに利便性を向上させていく。アステルでは着信通知のための仕様を公開し,一般のISPに着信したメールに対してもメール着信通知を可能にする方針だ。

 普段利用しているメールを直接送受信できるというドット・iの魅力はより拡大することになる。

第4世代の動向も睨み,次世代ネットワークへ移行

 携帯電話の第4世代は,2010年の実用化を目指し本格検討が始まっている。具体化されているのは広帯域化のために地上網を光ファイバー化し,無線部分に3GHz帯を利用するという点だけだ。

 TTNet(アステル東京)ではこの第4世代の動向を睨み,4〜5年後には次世代ネットワークへPHSの移行を目指す。NTT網に依存する現在の地上網を自社の光ファイバー網に置き換える。「NTT網に依存している限り思い切ったことができない」(TTNet)

 IMT-2000は2003年末には全国展開が予定され,ユーザー数が増加すればデータ通信コストの低減も可能になる。TTNetではIMT-2000が本格普及段階に達しても,次世代ネットワークへ移行することで更なるコストメリットを発揮し,十分対抗できるとする。

 アステルグループは各地域の電力会社との結びつきが強い。既に北海道,東北,関東,中部,関西では,PHSキャリアが電力会社を親会社とする地域系電話会社に吸収合併されており,地上と無線の両方のネットワークを自社で準備できる。ほかの地域でも電力会社の持つ地上ネットワークを活用できる体制にある。これはPHS陣営でもアステルグループのみが持つ強みだ。

既に動き始めているアステルの次世代ネットワーク

 ケイオプティコム(アステル関西)では,既に次世代ネットワークが動き始めている。自社の光ファイバー網とPHS無線システムを活用し,地域限定の試験サービスだが,PHSを利用して64Kbps,月額3500円で接続時間無制限のインターネット接続を実現している。

 2001年6月には本格サービス開始予定であり,場所も地域も問わない(関西地区で電波の届く範囲ではあるが)低コストなインターネット接続サービスが実現される。アステル関西ブランドではなくケイオプティコムのサービスだが,PHSの次世代ネットワークの形を既に具象化している。

 HOTnet,アステル北陸,アステル四国はもともと自社や電力会社の持つ地上ネットワークを利用しており,これを活用する形で接続時間無制限のデータ通信サービス(アステル四国では一部時間制限有り)を既に提供している。これもまた脱NTT依存で実現されるPHSの次世代ネットワークの形を具象化しているといえる。

アステルはどこへ向かうのか

 TTNetでは現状の基地局に手を加え,データ通信の高速化などに対応することは考えていない。次世代ネットワーク構築を視野に入れている以上,現状のネットワークに新たな投資をしても,そのコストは結局ユーザーに跳ね返るという判断だ。「次世代ネットワークの構築が視野にある以上,既に10万局以上ある基地局に手を加えることは,ユーザーにとってもメリットにならない」(TTNet)

 TTNetの方向性は賢明ではある。しかし,PHS陣営でも今年中にはデータ通信のさらなる高速化(128Kbps)やパケット通信のサービスを予定しているDDIポケットと比較するとさびしい限りだ。

 アステルグループ全体を見れば,現在再編のまっただ中にある。既にグループ10社中5社は,電力会社を親会社に持つ地域系通信会社に吸収合併された。残る5社の単独生き残りも厳しいはずだ。

 しかし地域系通信会社への吸収合併で見えてくるメリットもある。PHSは総合通信企業の中で低コストな無線インフラという重要な役目を担うことになる。「無線インフラは総合通信網に不可欠。現時点で採算が合わないというだけで辞めることは考えていない。そうでないなら合併せずにPHS事業を清算している」(TTNet)

 しかし吸収合併の効果がまだ見えていないのも事実。もっとも早い時期に合併を行ったTTNetですら,その効果として実現したサービスは東京電話とセット加入で基本料金を割引する「東京セット」だけ。「合併のシナジー効果はまだまだこれから」(TTNet)

 現在PHSキャリアにとってPHS事業が苦境に立たされていることは間違いなく,IMT-2000のサービス開始が近づいているのも向かい風だ。しかしPHSという低コストなインフラ自体は社会的に欠かせない存在になっており,IMT-2000の時代に入ってもその需要は確実にある。アステルは,ゆっくりとだが次世代への胎動を始めている。

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[坪山博貴,ITmedia]

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