携帯向けGPSに高精度を実現する新技術──Enuvis

米Enuvisは,独自技術を使い精度を高めたGPS技術を発表した。既に韓国SK Telecomとトライアルを実施しており,日本にもオフィスを設立。高い精度と柔軟な実装方式を武器に携帯電話への導入を狙う。

【国内記事】 2002年3月19日更新

 第3世代携帯電話のキラーアプリとして期待される位置情報サービス。また米国では連邦通信委員会(FCC)が,緊急事態に陥った発信者の位置を特定する技術の導入──すなわちE911要求を行っており,位置情報サービスへの期待と要求が高まっている(2001年9月の記事参照)。

 そんな中,米Enuvisはモバイル機器向けの位置測位技術「UrbanGPS」を使い,韓国の携帯通信事業者SK Telecomをはじめとする携帯通信事業者や関連メーカーと試験を行い成功を収めたと発表した。

 Enuvisは韓国だけでなく米国,日本でも端末メーカーなどとトライアルを行っており,「4月末を目処に携帯電話への実装を進めるための実験機ができる」(Enuvisのエグゼクティブ・ディレクター松田春彦氏)。今後日本事務所を開設し,通信キャリアへの採用を働きかける。

コヒアレントプロセシング技術でGPS精度向上

 UrbanGPSの特徴の1つは,精度の高さだ。コヒアレントプロセシングと呼ばれる手法を使い,通常20ミリ秒単位で解析しているGPS信号を2秒単位で解析する。解析単位を長くすることで微弱な信号でも測位に利用できるようになった。これにより,「GPS信号の微弱なところでも位置の測位が可能になった」(松田氏)という。

 同社が国内で実験したところ,ビルの谷間となる秋葉原電気街や建物内となるヴィーナスフォート,サンシャインシティ内でも誤差の少ない測位が可能だったという。同社資料によると,このような条件下でも98%が誤差100メートル以内に入っており,84%が誤差50メートル以下を実現している。

 コヒアレントプロセシング自体は目新しい技術ではないが,処理速度に問題があったという。UrbanGPSでは「通常2時間程度かかっていたものを短時間で解析可能にした」(松田氏)ところに工夫がある。Enuvisは2000年7月に米国サンフランシスコで設立された企業。GPSや携帯通信の専門家を中心とし,GPS信号の取り出しなど悪環境内からデータを取り出すアルゴリズムの研究が事業の元となった。

 また,一部のGPS信号を元に,ほかの衛星の信号解析を可能にする「ジオメトリックサーチ」という手法を用いて,精度向上に努めているという。

ネットワークの種類を問わないGPS機能

 携帯向けの位置情報機能の場合,通信ネットワークの活用が重要になる。通常のポータブルGPS端末では,位置の測位に何分もかかるものが少なくないが,通信ネットワークを活用することで測位にかかる時間を大幅に短縮できるからだ。

 UrbanGPSも,通信ネットワークの利用が基本となる。「自立型も可能だが,基本的にはネットワークにつながっていることが前提」(松田氏)

 ネットワーク上のロケーションサーバが,衛星位置などの補正情報を端末に送ることで,端末単体では難しい高速な衛星捕捉を可能にする。これは一般にA-GPS(Network Assisted GPS)と呼ばれる手法で,gpsOneでも使われている。


UrbanGPSの仕組み。測位の流れはgpsOneと似ているが,コヒアレントプロセシングを使い,微弱なGPS電波を利用して精度を向上させたのが最大の特徴

 通信ネットワークを利用した携帯向けの位置情報取得機能としては,米Qualcommの子会社であるSnapTrackのgpsOneが有名だ(2001年4月の記事参照)。国内でも,KDDIがgpsOne技術を使い「GPSケータイ」として対応端末を発売している(2001年11月の記事参照)。しかしgpsOneは,基地局情報を積極的に利用するという点などで,QualcommのcdmaOneネットワークの利用が前提となる。

 一方EnuvisのUrbanGPSは,ネットワークの種類を問わないことが特徴の1つ。PDCやGSM,CDMA,W-CDMAなど各種の通信ネットワークで利用できる。

 また,UrbanGPSはソフトウェアを使って機能を実現しているため,端末に特殊なハードウェアを必要としない。柔軟な実装が特徴だ。「一般的なGPSレシーバさえ組み込めば,あとはソフトウェアで処理できる」(松田氏)。なおパフォーマンスを上げたい場合,「EAB(Enuvis Accelarated Block)」と呼ばれるハードウェア回路も用意しているという。

位置情報の精度向上を求めるニーズ

 現在,携帯電話向けの位置情報取得機能にはさまざまなアプローチが存在する。端末が通信を行っている基地局の位置からだいたいの位置を計算するのが,最も単純な位置情報だ。NTTドコモがサービスしているiエリアがこれに当たる(2001年7月の記事参照)。

 さらに複数の基地局情報を利用して精度を増したり,GPS衛星からの電波を利用して高精度を実現する手法などが現在実用化されている。

 EnuvisのUrbanGPSでは,GPS信号を中心に位置を解析する。全くGPSが見えない場所でも,基地局からの情報を元にある程度の位置が把握できるハイブリッド型のgpsOneとは,この点で異なる。

 しかしQualcommチップを使ったCDMAネットワークを利用している韓国SK Telecomは,gpsOneではなくUrbanGPSを使った共同開発を進めている。松田氏は「UrbanGPSの精度の高さが評価された」と,SK Telecomに採用された理由を語っている。

 現在のところ,Enuvisの製品はアルゴリズムとソフトウェアが中心。テストもPCにソフトウェアを組み込んで行われた。しかし「4月末を目処に実験機ができる」(松田氏)。実際の携帯電話型とはいかないが,それに近いテストを行えるという。

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▼ Enuvis

[斎藤健二,ITmedia]

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