第8回 FOMAのモバイルブロードバンドは今がチャンス!(後編)

第7回のコラムでモバイルブロードバンドに否定的な視点しか持たないことの危険性を説いた。しかし実際のところ,モバイルブロードバンドに対するニーズはどこにあるのか。分析マトリクスを中心に捉えてみよう。

【国内記事】 2002年3月19日更新

 “動画”というタガを外した時のFOMAサービスにはユーザーメリットがあること,そしてニッチニーズを的確に捉えたモバイルブロードバンドサービスの提供にはチャンスがあることは,前回のコラムで述べた通りである。今回はやや難しい課題であるが,その具体的ニーズを分析してみることにする。

動画サービスのニーズマトリクス

 iモードがスタートした時,NTTドコモは当初集まったサービスラインナップを4つのカテゴリーに分類して表現した。しかし現時点のFOMAでは,ベースとなるマトリクスを具体的なサービス群として分類できるレベルには至っていない。

 では,どのような分類が成り立つのか。FOMAに対する否定的な捉え方ばかりで,その方向性を明確に提示したものがなかなかないため,いささか強引ではあるが敢えて下図のようなマトリクスを作ってみた。具体的なサービスではなく,サービスのベースとなるニーズで分類したマトリクスである。


 同マトリクスでは,動画系モバイルブロードバンドサービスの根底的ニーズを,「いつでもどこにいても自分自身,もしくは自分の“目”の代替をしてくれること」と定義。そこから,居ながらにして参加したい,もしくは参加しなければならないといった“参加的なニーズ”と,いつも常に見守っていたい,見守っていなければならないといった“監視的なニーズ”という2つの方向性を導き出し,それをビジネス,コンシューマニーズに振り分ける形で分類している。

 4つに分類された各ドメインのニーズは,「自分そのものの代替」という根底的なニーズが基点となっているものの,それぞれは決して中庸的なものではない。ユーザーがこのようにモバイルで動画を使いたいという,具体的,かつ強いニーズを示している。カバーリングマーケットとしては決して大きくない,限定されたユーザーに向けたニッチニーズなのである。

 これらの強いニッチニーズを的確に掴み,いち早くサービスとして浸透させれば,参入企業が少ない現状,一気にユーザーを獲得できるチャンスがどの事業者にもあるといえるのだ。

各ドメインのサービスとしての現実性

 しかし,ニーズがあるからといって,それがそのままビジネスベースに乗るかといったら,決してそうではない。分類されたそれぞれのニーズを,実際のサービスとしてのビジネス性から鑑みると,その現実性をどのように考えるべきなのだろうか。それぞれについて簡単に触れてみたい。

 まず,【A】コンシューマ向けの参加的ニーズ。主にエンタテインメント的なコンテンツに付随する形でのサービス提供が想定される。

 同エリアの場合,エンタテインメントという非常にユーザーコミット度の高いコンテンツがユーザーニーズを喚起するのが特徴だ。他者に先んじて,もしくは深く情報を得たい熱狂的なファンに対し,それほど無理矢理ではない形でそのコンテンツ情報を訴求することは可能だと思われる。

 ただし,その動画サービスに料金を注ぎ込んでまでも利用したいと思わせるには,元々のコンテンツ訴求の段階から他媒体との連携の中で,戦略的にモバイルへと導く仕掛けが必須となる。またそこまでのディープなサービスを求めるユーザー数は多くはないと想定されるため,まさしくニッチユーザー向けのプレミアサービスとして位置付けざるを得ない。

 仕掛け次第ではニッチユーザーを確実に取り込むことができるが,どこまでコンテンツプロバイダー側がモバイルを戦略的に仕込むかにかかってくるといえる。

 次に,【B】コンシューマ向けの監視的ニーズ。病人・高齢者・幼児などの監視,留守宅の監視などが具体的なサービスとして想定される。

 以前,ZDNetにもモバイルを用いた幼児向け監視サービスの可能性に関する記述があったが(2001年11月の記事参照),コンシューマの中には確実にそのニーズが存在する。あとは,それをサービスとして成立させられる事業者が出てくるか否かである。

 どの程度の料金設定が現実的なのか,サービスとしてどこまで保障することができるのか。そのあたりのビジネス感覚を持った既存の事業者が,動画系モバイルサービスに価値を見出せば,それなりの需要は喚起できると思われる。ただし,あくまでも既存サービスに付随する位置付けでの動画モバイル利用が主だと想定される。

 そしてビジネスマターにおける【C】参加的ニーズと【D】監視的ニーズ。

 これらのニーズは参加したいとか監視したい,というモチベーション的ニーズよりも,参加しなければならない,監視しなければならないというマスト的ニーズとしての捉え方をした方が自然である。つまり,参加や監視といったファンクションが自社のビジネスを効率的に進めるには必須の要件となる事業者に,そのニーズがあると考えられるのである。

 しかし逆をいえば,その事業者のビジネス運営にとり,参加や監視が絶対的なマスト要件なのであれば,既にそのサービスを専用線などを引いて導入している可能性が高い。よって,そのコストを動画系モバイルサービスであれば低廉化させることができる。もしくは遠隔参加,遠隔監視を行えば効率的なビジネス運営が可能だがコスト高などで手をこまねいていた事業者に,モバイルというインフラを使えば効率的に導入できる,などのメリット提示を行なっていかなければならないのである。

誰が最初にネコの首に鈴をつけるのか

 動画系モバイルサービスに対する需要は,“ニッチ”だが“強い”ニーズがどこにあるのかをきちんと見極められれば,その根っこを掘り起こすことは決して難しくはない。FOMA完全否定論などを真に受ける必要など決してないのだ。

 しかし,それらのニーズをビジネスとして成り立たせ,サービスとして浸透させられるビジネスモデルをいかに描けるかが重要になってくる。既存の事業者が動画系のモバイルサービスに対しての価値を見出し,サービスとして一般化させていくことが最も近道なのかもしれない。

 FOMA向けのモバイルブロードバンドサービスは今がチャンスである。しかし誰が最初にネコの首に鈴をつけるのか,そこが問題である。先行した事業者をつかまえて,「やはり鈴をつけに行かなくてよかった」などという業界の風潮が一般的になることだけは避けなければならない。

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▼ イエルネット

[イエルネット 杉村幸彦,ITmedia]

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