クアルコムは富士の樹海で試していた──電子コンパス付きGPSケータイ

「富士の樹海で試さないと」──いくら便利な電子コンパス付きGPSケータイといえども,サバイバルゲームまがいのことまでやらされるのはまっぴらだ。そんなときクアルコム ジャパンから「実は既に試しています」という電話が……。

【国内記事】 2002年4月24日更新

 評価用に借りていた電子コンパス付きGPSケータイ「C3003P」は,方向音痴な記者との1週間の蜜月を経て,auへと帰っていった。取材や食事,友人宅まで連れ歩き,My登録も増えたGPSケータイは,すっかり「マイケータイ」に。手元からなくなるのは,思いのほか寂しいものだ。

 GPSケータイを試している間中,編集部のスタッフたちからは「富士の樹海……富士の樹海……」と呪いのように囁かれ続けた。冗談じゃない。タダでさえ方向音痴なのだ。ランドマークも道もなさそうなところに,ノコノコ行くはずなんかない。しっかり聞こえないふりをし続けた。


樹海は富士のすそ野に広がっている

 そんなGPSケータイとの思い出も薄れかけたころ,クアルコム ジャパンから1本の電話が。「実は弊社スタッフが富士の樹海でフィールドテストを行っております。よろしければそのときの状況をご説明しますが……」。富士の樹海でGPSケータイが役立つかどうかを気にしていたのは,編集部スタッフだけではなかったようだ。

 クアルコムは,GPSケータイが採用している測位の方式「gpsOne」を開発した会社で,GPSケータイの生みの親ともいえる。

GPS専用端末より高機能だったGPSケータイ

 富士の樹海でGPSケータイのフィールドテストを行ったのは,クアルコム ジャパンのエンジニアリング担当部長の金子徹氏。ポケットから取り出したのは,犬のマスコットが付いたauのGPSケータイ。「gpsOne青木ヶ原樹海フィールドテスト結果」というPower Point資料を作成,プロジェクターでプレゼンテーションするという熱心さだ。(もっともこのくらい熱心な人じゃないと,富士の樹海までは行かないだろう)

 金子氏がテストを行った端末は「ハンディGPSレシーバ」「auの電子コンパス付きGPSケータイ」「auのGPSケータイ」「ココセコム端末」「基地局ID方式の他通信キャリアの端末」の5機種。


左からハンディGPSレシーバ,ココセコム端末,auの電子コンパス付きGPSケータイ

 テストでは,「携帯電話のサービス圏内で,ハンディGPSレシーバが測位情報を受信できない場所」という過酷な環境をあえて探した結果,富士山麓の青木ヶ原樹海(上九一色村,足和田村付近)が選ばれたのだという。GPSレシーバは,水分の多い葉が生い茂った樹木の下では衛星の信号が弱くなることを見越して,わざわざ雑木林のまっただ中で試すという念の入れようだ。果たしてGPSケータイは正しい位置を測位できるのだろうか。


第1ポイントは上九一色村付近の杉林


第2ポイントは足和田村付近の雑木林

 さてその結果はというと,やはりGPSケータイはやってくれた。ハンディGPSレシーバが「Point Lost」(測位できない状態),他通信キャリアの基地局ID方式のケータイが方向違いな「河口湖近辺」を測位した中で,ほぼ正確な位置を測位したのだ。


ハンディGPSレシーバは力及ばず


さすがGPSケータイ,見事,測位に成功! しかもほぼ正確

なぜ正確に測位できるのか

 なぜ,auのGPSケータイは正確な場所を測位できたのだろう。1つにはGPSケータイに採用されているgpsOneとういう方式が,弱い信号を補足する仕組みを備えているからだという。GPSケータイは,衛星から位置情報を受信して測位を行うため,信号の受信感度が重要になる。「通常の携帯GPSレシーバは−130dBmが限界だが,gpsOneは−150dBmから−155dBmまでいける」(金子氏)。dBmは電波の強さを表す単位で,数値が高いほうが信号が強いということになる。

 また,gpsOneの位置情報取得の方法も正確な測位に一役買っているそうだ。「gpsOneには位置情報を取得する3つの測位の方法があり,その場に最適な取得方法で測位される」(金子氏)。衛星からの信号のみで測位する方法と基地局からのデータを元に測位する方法,2つを組み合わせた方法があり,最も誤差の少ない方法で測位結果を出す仕組みだという。

富士の樹海に置き去りにされても大丈夫?

 それでは,富士の樹海で置き去りにされても,GPSケータイがあれば,脱出できるのだろうか。

 これは置き去りにされた場所にもよるようだ。「富士の樹海の中でも,村に近い場所と富士山麓に近い場所は基地局の電波を拾えるが,樹海のまっただ中では圏外になってしまうため,難しい」(金子氏)

 また,エリア内であっても,ランドマークも特にない樹海の中で出口にたどり着くには「富士山や村の方向を把握して測位しながら正しい方向に進むという判断力,バッテリーが切れるまでに出口にたどり着ける体力を備えていれば大丈夫かもしれないが……」(金子氏)

 方向音痴というハンデを負っていては,GPSケータイをもってしても,樹海からの脱出はまだまだ難しいようだ。

 金子氏は草木萌える初夏に,再び富士の樹海でフィールドテストを行う予定だという。「水分を含んだ葉が生い茂る環境下でGPSケータイが正しく位置情報を測位できるかを試す予定」

 編集部には,富士の樹海に代わる測位難度の高そうなスポットを紹介してくれた。「八甲田山で試すというのはどうでしょう。正しい測位に成功すれば,『あの時代にGPSケータイがあれば,悲劇は起こらなかった』という記事が書けますよ。どうせやるならエポックメイキングな要素があったほうが劇的でしょう」(金子氏)

 私はぜーーったいやりませんよ。

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[後藤祥子,ITmedia]

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