Mobile:NEWS 2002年10月22日 11:12 PM 更新

夢の“シートコンピュータ”実現に向けて

シャープと半導体エネルギー研究所は、液晶パネルのガラス基板上にCPUを形成することに成功した。これがどうして“シートコンピュータ”に結びつくのか。そしてガラス上に回路を形成できるようになるまでには、どのような道のりがあったのだろうか

 厚さ3ミリのただの液晶ディスプレイなのに、中にはCPUが内蔵されテレビやナビゲーションデータを見たり、鞄の中に入っている3G端末を通して通信できる──。そんな夢の“シートコンピュータ”に向けた基礎技術が開発された。

 シャープと半導体エネルギー研究所は、ガラス基板上にCPUを形成することに成功(10月22日の記事参照)。「2005年までにはディスプレイカードのようなデバイスを実現していきたい」と打ち上げた。


シャープが提示した「ディスプレイカード」のイメージ。CGシリコンを使ったシステム液晶内に、CPUだけでなくBluetoothや無線LANなども埋め込んでしまうというもの。2005年の実用化に向けて研究を進めている

液晶の“TFT”に、すべてを載せこめないか?

 この「ディスプレイカード」やら「シートコンピュータ」とはどんなものか。簡単に言ってしまえば、“液晶のTFT上にCPUやメモリまで載せてしまえば、薄くて軽いコンピュータができあがる”という発想だ。

 液晶ディスプレイの構造を簡単に説明すると、光を照射するバックライト、光を通したり遮ったりするスイッチの役割をする液晶、液晶を駆動する電極からなっている。この駆動回路(電極)には、TFT、STNなどの種類があり、表示の応答速度などが異なっている。

 TFTの中身は、ガラス基板上に作られた薄膜のシリコンを使ったトランジスタだ。このシリコンで、TFT素子だけでなくほかの回路も作れないか? それがシートコンピュータという発想の始まりになる。

 しかしガラス基板上にCPUなどの複雑な回路を成形するのには多くの課題があった。どんな問題があって、それがどのように解決されていったのかは、TFTの進化をたどると分かりやすい。

 TFTもシリコン、CPUもシリコン……と一言に“シリコン”といっても、その種類はたくさんある。一般にPCのCPUなどの材料に使われているシリコンは1つの結晶からなる「単結晶シリコン」だ。この単結晶シリコンの板(シリコンウエハ)の上に光でパターンを書き込みながらトランジスタを作っていく。

 しかしTFTの場合、ガラスの上にトランジスタを作らなければならない。そこでガラスにシリコンの薄膜を付けてトランジスタを作る手法が使われている。TFT=薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor)という名前はそこから来ている。

単結晶に近づけようという、TFTの進化

 初期のTFTはアモルファスシリコン(A-Si:非結晶シリコン)と呼ばれるものだった。しかしシリコンウエハなどの単結晶シリコンと比べると、電子の移動度、つまり処理速度が遅くCPUのような速度を要求される回路を形成できなかった。

 そこでアモルファスシリコンにレーザーを照射し、多結晶(ポリシリコン:P-Si)の膜を作る方法が編み出された。当初は多結晶の生成に1000度近い高温を使っていたため、通常のガラスでは耐えられず、熱に強い石英ガラスなど高価な基板が使われた。これが「高温ポリシリコン」だ。

 最近では、500度以下の普通のガラスが耐えられる温度でもポリシリコンTFTの形成が可能になってきている。こうした比較的低い温度で作られたポリシリコンを、一般に「低温ポリシリコンTFT」と呼んでいる。ちなみにプラスチックなどにTFTを形成するのが難しいのも、この温度のせい。

 ポリシリコンTFTになって、電子の移動度はアモルファスの100倍以上に向上したが、CPUを形成するにはまだ足りない。ポリシリコンのひとつひとつの結晶粒子を大きくすれば電子の移動度は大きくなる。最終的な夢は、もちろん単結晶に近いほど1つの結晶を大きくすることになるだろう。

 シャープのCGシリコン(連続粒界シリコン:Continuous Grain-Si)は、現在のポリシリコンと比べて結晶粒子が大きく、境界も連続的なものだ。シャープは「電子の移動度は、アモルファスシリコンと比べて600倍、ポリシリコンと比べて3倍」としている。


単なるシステム化から、シリコンとガラスの比較へ

 こうしたTFTの進化によって、回路をガラス基板上に形成できる道がひらけてきたわけだが、つい最近まで、ガラス基板上のTFTにいっしょに形成できる回路は比較的単純なものに限られていた。

 液晶パネルを表示させるには、パネルのほかにドライバIC、表示コントローラ、フォントジェネレータなどさまざまな回路が必要。従来は液晶パネルにこれらのチップを組み合わせて液晶モジュールとしていたが、これらが最近はガラス基板に載せこめるようになっている。いわゆるシステム液晶だ。

 半導体エネルギー研究所所長の山崎舜平氏は、「システム化していったときの最終ゴールがCPU」だとしている。今回CPUの成形が実証されたことで、コンピュータを実現するための要素が液晶パネルのガラス基板上に載せられる可能性が見えた。それが「シートコンピュータの実現に向けた第一歩」だったわけだ。

 既に半導体エネルギー研究所の視点は「シリコンとの比較」に向いている。同研究所社長の山崎舜平氏は「ガラスはシリコンよりも処理温度が低く、その結果、工場も廉価にできる可能性を持っている」と、シリコンに対するガラスのメリットを説明する。「ガラスはシリコンに比べてデザインルールもルーズでいい。またメタルゲートが使えるため高速になる。(シリコンウエハで使う)シリコンゲートと同等以上の性能だ」(山崎氏)。

比較シリコンウエハガラス基板
基板面積324〜729平方センチ4464〜6716平方センチ
処理温度900〜1200度最大500度(省エネ)
工場高価比較的廉価
トランジスタ構造シリコンゲートプロセス金属ゲートプロセス(高速化)
工程CMOS化が複雑CMOS化が容易
スケーリング10n-100nm0.5μ-3μ
開発コストきわめて高価比較的廉価
シリコンウエハに比べて大きな面積を使えるのもガラス基板のメリットとなるという

 今後の課題は、「さらなる低電圧化。そして動作速度を速くしていくこと」(小山氏)だと言う。CG液晶の技術ロードマップによると、2005年には0.6μm、20M-30MHzのロジック回路が実現できる。ターゲットとしているCPUコアがARM7やARM9ということもあり、現行の携帯電話程度のパフォーマンスは期待できそうだ。

 シートコンピュータは単なる夢でなく、実現に向けてロードマップが描かれる段階まで来ている。



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[斎藤健二, ITmedia]

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