盗撮を怖れるのは女性だけではないカメラ付き携帯を使った“盗撮”という言葉が一般化してきた。常に持ち歩き、手軽に撮影できるだけに、これまでのカメラでは想定していなかったシーンで撮影が行われている。今後、カメラ付き携帯電話を巡る議論が必要になってきそうだ
カメラ付き携帯の普及は、新たな社会問題を引き起こしそうだ。昨今、カメラ付き携帯を使って女性のスカートの中を撮影する盗撮がたびたび事件になっている。しかし、“盗撮”の被害はそれに留まらない。
「我が社では、今後社内からカメラ付き携帯がなくなりそうです。そもそも社内へのカメラ機材の持ち込みは禁止されていますが、その関係でカメラ付き携帯の持ち込みが禁止されるようです──」。某大手自動車メーカーの社員から、ZDNetにこのようなメールが届いた。 もともと産業スパイなどを防ぐため、研究所、工場と名の付くところではカメラの持ち込みは御法度。それが最近では携帯電話まで制限されるようになってきた。 とくに「新車種」「新機種」は、デザインが非常に重要なポイント。それほど画質がいいとはいえない携帯電話のカメラでも、流出は致命的だ。実際、ネット上で出回る“流出画像”の多くが、最近ケータイカメラで撮影されたと思われるサイズ・画質になってきている。 もっと身近なところでも、“携帯電話お断り”は目立つようになってきている。書店がその1つだ。一部の書店では、「携帯電話での撮影、メモリへの登録はご遠慮ください」という張り紙が掲示されるようになった。 そもそも書店では、雑誌・書籍の立ち読みは許されていても、メモを取ったり撮影することは禁じられている。これまでは書店でカメラを取り出して撮影していたりすればかなり目立つため、とりわけ禁止をうたってはいなかったが、小さくて目立たない携帯電話はこれまでノーチェックだった。 デジカメと異なり、常に持ち歩いていることも、「つい出来心で……」という撮影がされやすい土壌になっている。
「カメラ持ち込み禁止」の立て札を必ず見るのがコンサート会場。しかし、いまのところカメラ付き携帯電話はそれほど厳しく規制されていないようだ。 「(カメラ付き携帯電話持ち込みの)チェックはしていない。自主判断で出されたときはお預かりする」と、国内外アーティストのライブを手がけるプロモーターのスマッシュは現状を説明する。アーティストの意向によるが、カメラ付き携帯やインスタントカメラの持ち込みは、まだそれほど厳しくない。 しかし、それが撮影許可を意味するわけではない。『iモードスタイル』12月号に掲載された松永真理さんの対談記事には、カメラ付き携帯による盗み撮りの話題が取り上げられている。 「ケータイを持っている人は何も言わずに写真を撮っていく。これはイヤですね」とエッセイストのパンツェッタ・ジローラモさん。普通は「写真を撮ってもいいですか?」と聞いてくるのだが、カメラ付き携帯のユーザーは隠れて撮影するのだという。「盗み撮りしているつもりだけれど、撮られる側は分かりますよね」。
今後も、カメラ付き携帯電話が増えるに従って盗撮の問題はクローズアップされていくだろう。こんなとき、安易に飛びつきやすい結論は、“端末メーカーやキャリアの責任にする”というもの。 しかし“誰もが日常的にカメラを持ち歩く”という状況は、これまで歴史上でもなかった事態ともいえる。メーカーやキャリアだけに責任を押しつけては、せっかく立ち上がったカメラ付き携帯電話の発展を阻害する可能性が高い。 確かに、端末側の工夫も必要だ。撮影時に大きな音と光が出るようにしたのは、カメラ付きの元祖であるJ-フォンとシャープの卓見だろう。また、J-フォンの「J-P51」(6月14日の記事参照)やauの「A1013K」(10月29日の記事参照)のように、カメラ部に可動式のカバーを付けるのは、盗撮のえん罪を防ぐ意味でも、出来心の盗撮を思いとどまらせる意味でも効果がある。 “これ以上の何か”を端末に期待するのは、技術的にも容易なことではない。ある通信キャリア関係者も、「盗撮がここまで問題にされるとは想定していなかった」と話す。 今後、携帯内蔵カメラの高画素化、高画質化、そして動画対応が進む中で、安易に端末の機能制限に飛びつかないかたちでの議論が必要になってくるだろう。
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