Mobile:NEWS 2003年1月29日 11:16 PM 更新

新世代FOMA、待ち受け時間向上の秘密

新しい3つのFOMAでは、待ち受け時間が170-180時間と、従来の3倍にまで伸びた。しかし電池容量はほとんど変わっていない。いったいどのようにして待ち受け時間を伸ばしたのだろうか?

 NTTドコモの第2世代のFOMAは、従来機種に比べて約3倍の連続待ち受け時間を達成した(2002年12月の記事参照)。FOMAの弱点として常に上げられてきた“バッテリーの持ち”が、やっと改善されたわけだ(2002年8月の記事参照)。

機種連続待ち受け時間連続通話時間
第2世代のFOMA170-180時間130分
東芝「FOMA T2101V」125時間100分
これまでのFOMA55時間90分
PDC(iモード)400時間以上140分程度
CDMA2000 1x(参考)200時間程度140分以上
各方式のバッテリー駆動時間。PDCやCDMA2000 1xは代表的な値
PDC並……とまではいかなくても、KDDIのCDMA2000 1xに近い値まで、新しいFOMAは駆動時間を伸ばしていることが分かる。注目したいのは連続待ち受け時間の伸び。逆に、連続通話時間はそれほど劇的には増えていない

 しかし単に“バッテリー容量を増やした”から動作時間が伸びたわけではない。例えば新しい「FOMA F2051」のバッテリー容量は3.7V・780mAh。旧型の「P2101V」が690mAh、「N2002」が740mAhであり、たった10%程度の容量アップだ。

 では、どんな工夫によって駆動時間を伸ばしたのか。NTTドコモの移動機開発部IMT-2000移動機担当の東明洋担当部長に聞いた。

「いかに受信をさぼるか」〜最大のファクター

 「簡単に言うと、いかに受信をさぼるか、が重要なファクター」と東氏。連続通話時間は世代が新しくなっても大きな違いは出ないが、待ち受け時間はチューニングによる改善の余地が大きいと言う。

 携帯電話は待受時も忙しく動いている。基本的には、「自分への着信を見る」「セルの信号レベルを見る」「周辺セルの信号レベルを見る」の3点が主な仕事だ。こうした信号に専用の周波数が割り当てられていた従来のPDC方式と違い、FOMAの場合「信号もCDMA方式で通信する」(東氏)ため電力を消費する。

 よく知られるように、CDMA方式では広い周波数帯域に信号が拡散されて飛んでくる。電波を受け取った端末は、その信号の中から“どれが自分宛の信号なのか”を逆拡散という複雑な演算を行って調べなければならない。数秒ごとに、「逆拡散しないと信号レベルが分からない」(東氏)のだから大変だ。

 FOMAのベースバンドチップは、この逆拡散処理をひたすらやっている。東氏は「待ち受け時間は、ほとんどがLSI(ベースバンドチップ)で決まる」と話す。

 最初の頃のFOMA端末では、「どれだけさぼれるか分からなかった。余裕を見て受信を行っていた」と東氏。サービスを提供していく中で、どの程度さぼっても大丈夫かが見えてきた。

 例えば、新しいFOMAでは移動時と静止時で異なった待ち受け時間が表記されている。移動時はハンドオーバーのために周辺セルの信号チェックをする必要があるが、静止時のように「自分のセルの信号レベルがあまり変化しない場合、周辺セルの信号レベルを探すのを、ある程度さぼることができる」(東氏)からだ。

LSIの製造技術も貢献

 さらに、ベースバンドチップのLSI自体の改良も進んだ。1つはプロセスルールの進化だ。0.18μから0.13μへ、さらに90ナノへ……という進化はCPUなどではお馴染みだが、携帯向けLSIでも微細化が進む。LSIの消費電力は電圧の2乗×動作クロックで決まるため、微細化が進み低電圧で動作すれば消費電力は下がる。

 またチップを機能ごとにブロックに分け、ブロックごとに電源のオン・オフもできるようになっているという。

 数々の工夫によって待ち受け時間は伸びたが、「PDCに追いつくには、まだいろいろな“さぼり方”を探さなくてはならない」と東氏。「本当にFOMAをPDCと同じように使ってもらうには、300時間という待ち受け時間が妥当」だと言う(2002年12月の記事参照)。

 当初の悪評が拭い切れていないFOMAだが、待ち受け時間も伸び、エリアも拡大した。「使っていただいて、新しいFOMAの良さを知っていただきたい」と東氏は話していた。

FOMAが難しいのはなぜか?

 CDMA方式ではレイク受信といって複数の電波を受信し、合成して感度を上げる手法が使われている。障害物などにぶつかって跳ね返ってくるマルチパスによる遅延波も利用できるなどCDMAの大きな特徴なのだが、消費電力的には厳しい面もある。拾った電波のひとつひとつに逆拡散処理をしなくてはならないためだ。電波をいくつ拾えるかをフィンガー数と言うが、「同時にたくさんのフィンガーを動かせば電力を喰う」(東氏)わけだ。

 auなどで使われているCDMA2000 1xではフィンガー数は3本。「3つの電波を利用する」と昔のCMで流れていた通りだ。ところが、5MHz幅と広い周波数帯域に信号を拡散させるW-CDMA方式の場合、さらに多くのフィンガーが使われている。ドコモはFOMAのフィンガー数を明らかにしていないが、試作機では6本使っていた。

 新型FOMAでは、電波の状況によっては、フィンガー数を減らして消費電力を抑えるといった工夫もしているようだ。

 “電力”の面で見ると、高速化にも課題がある。FOMAに使われているW-CDMA方式では、従来から「最大2Mbps」と言われてきた。しかし「同じ帯域でビットレートが倍になれば、電力も倍」(東氏)となり、おいそれとスピードは上げられない。

 ちなみに、PDCでは当たり前のように使われているダイバーシティアンテナもFOMAでは使われていない。これは端末の小型化に伴って2本のアンテナの距離を離せなくなることが懸念されたのと、「アンテナの切り替えではゲインが得られない」(東氏)ためだ。アンテナごとに複数のフィンガーを割り当てなければならないが、それならばアンテナ1つでも同じではないか、という判断だという。



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[斎藤健二, ITmedia]

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