Mobile:NEWS 2003年2月17日 00:06 AM 更新

やおよろずフォーラム2003〜文の知・理の知が紡ぐユビキタス情報社会〜

文系の知恵、やおよろずの知恵を融合したユビキタスコンピュータ社会とはどんなものなのか。「やおよろずフォーラム」が開催され、今後の研究がスタートした

 国の縦割り行政は、社会に強い影響をもたらす。

 最近、まるでユビキタスが流行語であるかのように増え続ける、その名を冠したフォーラムやイベント。そうした研究会がまた1つ登場した。2月10日に虎ノ門パストラルで行われた、「やおよろずフォーラム」という研究会である。

 通常、コンピュータ系の管轄省庁は経済産業省と相場が決まっているのだが、実際に社会のなかでコンピュータが使われる場合には、よりユーザーサイドに近い知恵も必要である。セキュリティや著作権、教育、文字コードなどという問題の場合には、しばしば文部科学省が登場してくる。

 この2つの省は、たいへん大まかに分けると、文系と理系という──書いていてもほとんど死語だという気もするが──傾向の違いがあって、縦割り行政の常として縄張り争いをしている。

 縄張りはともかく、実際に社会のいたる所でコンピュータが使われてくる場合には、単なる技術的な成果を持ち込んで、「できましたから使いましょう」というだけではダメなことは、よく分かっている。

 いくら理想的なコンピュータシステムであっても、社会的な合意なしには、どこかで「NO」という機会も必要。特に、盗聴などのセキュリティにおいては、社会的な合意が必要だ。これは、遺伝子、環境などの問題が技術だけでは解決できないのと同じだ。

 ユビキタス・コンピューティング/ユビキタス・ネットワーキング社会では、ユーザーは情報やサービスを提供されてハッピーにもなり得るが、「自分自身の情報をデジタル情報化されて利用されない権利」(明治大学夏井高人教授)もある。そうしたセキュリティが守られてこそ、社会合意が形成されるのである。


明治大学法学部夏井高人教授はインターネットやユビキタスの将来は薔薇色だけではない、と講演した

技術の裏に必要な思弁、その裏にある信仰

 この「やおよろずフォーラム」で、基調講演を行った日本学術会議副会長、東大名誉教授の吉田民人氏は、「ユビキタスはきわめて具体的なものだが、具体的なものを社会に導入するときには、その裏にきわめて思弁的な考察が必要」と、研究会の方針を語った。

 基調講演というのは、研究会全体に強い影響力をもたらすのだが、この文系的、学究的、根源的な発想は、コンピュータ系の学者を圧倒して、会場に新たな空気を吹き込んだ。

 吉田氏は、現在進行しつつある科学革命(ユビキタスに代表されるコンピュータも含む)は、第二の科学革命であると位置づけ、「社会に激動をもたらすだろう」とした。さらに会場からの質問に答えて「科学はもっとも根深いところで信仰です」と回答し、大喝采を受けた。

 続くパネル討論では、2002年3月に近未来志向ユビキタス環境実現のための実験システム「STONE Room」を、東京文京区に構築した、東京大学情報理工学系研究科/新領域創成科学研究科青山・森川研究室の青山友紀教授が、「吉田氏の基調講演を踏まえて研究していきたい」と語った。

 青山教授の「STONE Room」とインターネット上で相互接続して共同研究を行っている「Smart Space Lab.」を運営するのが、慶應義塾大学環境情報学部の徳田研究室(所在地・神奈川県藤沢市)。その高汐一紀助教授が壇上に立ち、「がちゃがちゃした一発芸的なインターフェースではない、スマートなインタフェースを研究したい」と述べた。「ユビキタス」というと、技術者は、いろんなものを持ち歩くようなことを行いがちだが、それでは社会に受け入れられにくいのではないか、というわけだ。


慶應大学の高汐一紀助教授は、Ubicomp2002の成果として、現在のウェアラブルのスタイル(2月7日の記事参照)を「がちゃがちゃした一発芸的なインターフェースで、クラシックなスタイル。それは、受け入れられない」と切り捨てた


慶應大学の高汐一紀助教授らによる、Smart Furnitureのデザイン。社会に受け入れられることをめざして、鏡の形をしたコンピュータディスプレイなどを提案しているという。白雪姫の悪い女王が使っていたのは、これだったのか!

「スイッチをオフする権利」

 続いて、明治大学法学部夏井高人教授は、「センサーされない権利」を守ることが重要として、社会合意の必要性を訴えた。

 バリアフリーを超えたユニバーサルデザイン研究を実践するユーディット代表取締役の関根千佳氏は、ユビキタスではユニバーサルデザインがますます重要であるとし、「スイッチをオフする権利」があると意見した。

 文系の研究者が直接登場するユビキタス系の研究というのは、まだ少ないようだが、今後、ますます増えていくことが予想される。ユビキタスの「夢」を語るだけでなく、それのもたらす影響についても考えておくことは重要だ。

 やおよろずフォーラムでは、パネリストたちが実際にグループを組んで、ユビキタス情報時代の研究、提案、仕様作成、評価などを行っていくという。



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[美崎薫, ITmedia]

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