Mobile:NEWS 2003年2月24日 09:51 PM 更新

「ケータイ先進国日本」は復活するのか?
インセンティブモデルが崩れたら?(1)

前回は日本独特の携帯販売形態である「インセンティブモデル」を解説した。このモデルが、もしも崩れたらどうなるのだろうか

 2001年度のNTTドコモの決算は、営業利益が当初計画の9240億円に対して、実際は1兆29億円というポジティブなものであった(2002年5月の記事参照)。これは、代理店手数料(インセンティブ)などの「物件費」が計画よりも2000億減ったためといわれている。

 また、2月に発表されたKDDIのau事業決算では、2002年3月に4万2000円であった販売コミッション平均単価が、2003年3月では4万円と予測されている(2月4日の記事参照)。

インセンティブモデルが崩れたら?

 前回は、インセンティブモデルという、携帯電話産業を支えてきた富の分配における「エンジン」を説明した。これにより携帯キャリアは産業を取り巻くメンバーに対して、分配者として強力な市場牽引力を持っていた。

 また最後に、この行方が業界の構造を変えるトリガーになり得るという仮説を述べた。では、この衝撃はどのくらいの重要度を持つのだろうか。

 かのビル・ゲイツは、「コミュニケーションにかかるコストが0になったら」という仮定で、新しい時代の予想をしたという。あるパラメータの重要度を知るとき、極限までの想定を行うと、本質が見える場合がある。この場合もまず極端な例として、“もしインセンティブがすべての携帯キャリアで完全になくなってしまったら”という思考実験をしてみよう。

 まず携帯端末の市場価格が跳ね上がる。例えば今まで5000円だった端末が4万5000円になるのだ。まずは、今持っている携帯を「もうしばらく使おう」と考える人が多いに違いない。機種変更期間が現在よりも長くなり、現在年間4000万台程度ある携帯端末の販売台数(2月13日の記事参照)が減少するだろう。また、ナンバーポータビリティ化の可能性(1月17日の記事参照)を別にした場合、キャリアを乗り換える率も下がり、現在のマーケットシェアでの固定化が進むと考えられる。

 ただし端末価格が上昇するのであって、通話料金が上昇するのではない。そのため急激に通話時間が短くなるとは考えにくい。当事者である携帯キャリアにとっては、端末手数料という営業費におけるコスト圧縮が図れる上、急激な通話料収入の落ち込みもないだろう。この影響を大きく受けるのは、キャリアではなく携帯端末メーカーとなる。

携帯端末メーカーの動き

 今までのインセンティブモデルでは、携帯端末の販売予測も比較的立てやすく、メーカーとしては製造計画においてもリスクが少なかった。ところが、今まで一機種の販売台数を数10万台としていた計算が、急激に崩れることになる。

 ここで考えられるのが、端末の分化だ。

 1つは価格を下げるため、ベーシックな機能に絞る方法である。ツーカーグループの端末に見られるように機能を絞った簡単なケータイという形になる。

 もう1つはスタイル重視のタイプ。携帯電話は自動車とならび、さりげなく自分のライフスタイルを他人に示せるアイテムである。この要素を強く打ち出すモデルが考えられる。

 高機能モデルで差別化を図る方法もある。カメラ部分の高機能化(画素数アップなど)ばかりでなく、PDAに限りなく近づくこと、つまりスマートフォン化の可能性もある。

市場牽引力の分散?

 これらは何を意味しているのだろう。1つは携帯端末メーカーの販売台数に対するリスクが高まる。つまり、もし携帯事業者が新サービスを実施しようとしても、それがメーカーにとって採算が合わない場合には、拒絶する可能性も出てくるわけだ。

 これまで新規サービス実施はキャリアがイニシアティブを握っていたが、今度はメーカがキャスティングボードを握ることになる。インセンティブモデルという富の分配が終焉を迎えた際には、携帯キャリアだけでなく携帯端末メーカも市場牽引力を保持することになる。

 インセンティブモデルが1998年に崩れた韓国はどうなっているのだろうか。韓国の携帯市場は、現在人口比普及率が70%で、日本よりも進んでいるといわれている。日本の2003年1月の携帯電話契約数は7390万200なので、60%強である(2月7日の記事参照)。

 韓国では、インセンティブモデルが崩れた際に、当然端末価格が上昇した。しかし現在販売中のもので、最も人気があるモデルは 「LG-KH5000」という最高値(7万円近い)機種である(KTFのサイト参照)。カメラが付いた非常にスタイリッシュなモデルで、KTFという韓国事業者のFIMM (3G) マルチメディアサービスに対応している。

 これは、顧客ニーズが満たされれば、高価な端末であっても販売できることを示す一例である。

 今回はすべての携帯キャリアが手数料を止めた場合という例をとってみた。ただし、あくまで引き金を引く権利はキャリアにある。次号では各キャリアについて推測してみたい。

著者紹介
福本靖:株式会社ザイオン取締役コンサルティング事業部長。日本ヒューレット・パッカード時代から多くのネットワークおよびモバイル・ビジネスに従事。「LANネットワーク管理技法」「Kornel Terplan」の著作もある。



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