Mobile:NEWS 2003年3月3日 07:48 PM 更新

有機ELディスプレイが“ようやく”本格船出

三洋電機とEastman Kodakが、有機ELディスプレイの出荷を開始。アクティブ型のフルカラータイプでは世界初の商用出荷となるわけだが、第1弾製品は、期待されていた携帯電話ではなくデジカメ向けだ

 三洋電機とEastman Kodakは3月3日、アクティブマトリックス型フルカラー有機EL(OLED)ディスプレイの商用出荷を2月から開始したと発表。第1弾製品は、今年4月から発売予定のEastman Kodakのデジタルカメラに採用される。「有機ELディスプレイの商用出荷は、アクティブ型のフルカラータイプでは世界初」(三洋電機)。


商用出荷を開始したアクティブマトリックス型フルカラー有機ELディスプレイ

 今回出荷されたのは、デジタルカメラやDVカメラ向け。画面サイズは2.16インチ(対角58ミリ)で、解像度は521×218ピクセル(約11万画素)となる。三洋電機岐阜事業所内にあるエスケイ・ディスプレイの生産ラインで、月産10万枚(2インチ換算)体制での量産が始まっており、2003年末までには月産100万枚体制まで拡大する構えだ。

 三洋電機セミコンダクターカンパニー社長の田中忠彦氏は「拡大する小型ディスプレイ市場の中でも有機ELは特に有望。調査会社によると2005年には2200円億円という市場規模が予測されているが、当社とKodakとで約1/3となる700億円を目指している」と語る。

 Kodakが1987年に開発した有機ELに早くから着目し、同社とのライセンス契約にも携わった三洋電機セミコンダクターカンパニーディスプレイ事業部長の米田清氏は「高輝度・高コントラストで視野角が広く、応答速度も速い。また、今回開発した製品でもモジュール厚は1.8ミリと薄く、貼り合わせるガラス厚をもっと薄くすれば1ミリ厚の製品も可能。消費電力は液晶より若干高めだが、これも今後の研究開発で改善していく」と、有機ELディスプレイの優位性を述べる。

モジュール比較表透過型LCD反射型LCD有機EL
消費電力△(250mW)△→◎(現在270−300mW)
輝度・コントラスト○(100:1)△(10:1以下)◎(500:1)
視野角△(上下95度以下、左右110度)△(上下65度、左右80度)◎(上下左右180度)
応答速度△(20m秒以上)◎(10μ秒)
モジュール厚△(3ミリ)△(3.6ミリ)◎(1.8ミリ以下)

 有機ELディスプレイの採用第1弾となった製品は、デジタルカメラ。Eastman Kodakが3月2日(現地時間)、写真関連機器の見本市「PMA2003」で発表した有効310万画素3倍ズーム搭載の「Kodak EasyShare LS633 zoom digital camera」だ。コダックの堀義和社長は、「OLEDで実現した鮮やかでクリアな画面は従来のディスプレイにはなかったもので、デジカメ史上においても画期的」と語る。


有機ELディスプレイ搭載初製品となったKodakのデジカメ「LS633」

 発表会では従来機種(LS433、日本では未発売)と新製品とでディスプレイを比べて、画面の鮮やかさや視野角の広さをアピール。「従来機は視野角が100度程度なのに比べて、新製品は180度もあり真横からも見られる。視野角が広いので、人ごみの中でも手を伸ばしてデジカメを上にかざし、下からディスプレイを見ながら撮影できる。画面サイズも2.2インチと広く、撮影してすぐモニタ代わりに使う時も見やすい」(堀社長)。


従来機種(左)と有機EL搭載のLS633(右)

 LS633の価格は399ドル。実売はもう少し安くなるとのことなので、有機ELディスプレイ搭載という付加価値を考えると、かなりの戦略価格といえそうだ。今年4月から欧州/アジア/オーストラリア地区で販売されるが、残念ながら日本での販売は「今のところ考えていない」(堀社長)とのこと。

“ようやく”商用利用がスタートした有機EL。今後の展開は?

 今回開発されたアクティブマトリックス型フルカラー有機ELディスプレイは、低温ポリシリコンTFT基板上に回路を形成している。これは、素子自らが発光する有機ELが、発光のためのエネルギーとして画素ごとにある程度の電流供給が必要となるため。電子移動度が高い低温ポリシリコンTFTでなければ、アクティブマトリックス型で有機EL素子を発光させることが難しいのだ。

 米田氏は両社の共同事業のメリットについて「Kodakは有機材料の開発に一日の長があり、有機ELに関するパテントも数多く持っている。また当社は、アクティブ型有機ELディスプレイには欠かせない低温ポリシリコンTFTの開発で実績がある。2社の技術を結集すれば、より早く製品を市場に出せるということでジョイントベンチャーを設立した」と語る。


コダックの堀義和社長(左)、三洋電機セミコンダクターカンパニー社長の田中忠彦氏(中央)、同社ディスプレイ事業部長の米田清氏(右)

 しかし、今回の有機ELディスプレイの本格的な製品化スタートは、「いよいよ」というより、「ようやく」という感は否めない。

 三洋電機とEastman Kodakは、2001年12月に合弁会社「エスケイ・ディスプレイ」を設立し、有機ELディスプレイの量産出荷体制を築いていた。だが、実際に出荷した有機ELディスプレイ製品は、昨年5月に発表した携帯電話向け評価用キットの300台のみ。つまり、この生産拠点での本格的な出荷自体も今回が初めてとなるわけだ。

 また、採用第1弾製品が、デジカメだったという点も興味深い。

 有機ELは高コントラストで視野角が広く、モジュールの厚さも薄くできることから、当初から携帯情報機器への搭載が適していると言われており、当然その中にはデジカメも含まれていた。両社それぞれでも製品を有するデジカメから有機ELディスプレイを製品化したというのは、ある意味順当な選択なのかもしれない。

 だが、当初から最も有望視されていたのは、デジカメではなく“携帯電話”だった。

 「携帯電話向けについては、まず自社製品(三洋電機製)で検討中。ただし、携帯電話に関してはメーカーだけでなくキャリアの意向もあるので、デバイスができたからすぐに製品化するというわけにはいかない。それでもデジカメ同様に社内での評価は高いので、できれば今年中に製品化したい」(米田氏)。

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[西坂真人, ITmedia]

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