Mobile:NEWS 2003年3月6日 07:57 PM 更新

夢のメモリ実現へ向けて〜渡辺商行がFeRAM向けCVD

これまでICカードなど容量の小さいデバイス向けが中心だった次世代メモリ「FeRAM」に、大容量化・大量生産の道が拓けつつある。渡辺商行は独自の気化器を使ったMOCVD装置を開発。FeRAM製造メーカーなどに販売する

 瞬時に立ち上がるパソコン、バッファなしで連写可能なデジカメ、より高機能な非接触ICカード──。そんな製品を可能にするメモリ、FeRAM(Ferroelectric Random Access Memory、強誘電体メモリ)の大量生産につながる装置が開発された。

 渡辺商行は、グループ会社のワコム電創が山形大学工学部の都田昌之教授と共同で、世界で初めての気化器を使い、FeRAMの大量生産を可能にする製造装置を完成させたと発表した。同社は、この「Wacom Flash CVD装置」の詳細を米コロラドで開催される国際学会 ISIF2003で3月11日に発表する予定。

 同社の楠原昌樹社長は、この装置の登場によって「(将来)フラッシュメモリの最低半分、70%くらいがFeRAMに置き換わるのではないか」と期待する。既に「半導体回路メーカーが10件弱。電子部品へ応用しようというメーカーから4件、問い合わせが来ている」とし、今後の拡販を目指す。3月11日に販売を開始し、9月を目処に出荷する。


左は山形大学工学部の都田昌之教授。右は渡辺商行の楠原昌樹社長

高速かつデータが消えないFeRAM

 FeRAMは、フラッシュメモリやEEPROMのような不揮発性メモリの1種。その上、速度が高速で動作電圧も1.5V程度と低いことから、フラッシュメモリなどの代替となる次世代メモリとして注目されている。

 不揮発性で速度が高速なメモリとしては、FeRAMのほかにもMRAMやOUMなどがあるが(2001年12月の記事参照)、いずれもまだ研究段階にある。FeRAMは既に富士通がICカード向けなどに量産しており、市場での実績が最大のアドバンテージとされている。

 しかし、これまでのFeRAMは実現可能なメモリ容量が数十Kバイトと小さく、ICカードなどのEEPROMの置き換えなどに用途が限られていた。

 容量が増やせなかった理由の1つは、FeRAMに使う強誘電体薄膜の形成法にある。通常、半導体を大量生産するときの成膜にはCVD(Chemical Vapor Deposition)と呼ばれる、「ガスに材料を混ぜて作る方法を取る」と、装置の製造に携わったワコム電創 機器装置部長 兼 光装置部長の矢元久良氏は話す。

 ところが、これまでのFeRAMは「比較的簡単だが、組成が変えられず、カバレッジが低い」(矢元氏)スパッタ法で作られることが多かった。FeRAMの薄膜材料である、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)やSBT(タンタル酸ビスマス酸ストロンチウム)はガスを使ったCVDが利用できず、有機溶媒に溶かして気化させる「MOCVD」を使う必要があったからだ。

 ところがMOCVDには頻繁に目詰まりが起こるなどの問題があり、連続運用が難しく、実用化は難航していたと矢元氏は話す。

 ワコム電創は、「目詰まりしない気化器」(矢元氏)を開発。これによって、MOCVDによる強誘電体薄膜の形成が容易となり、「ようやく高性能FeRAMの量産ができる」(矢元氏)と言う。


同社の製造装置を用いて作られたFeRAMのウェハサンプル

これまでと全く異なる気化装置

 このCVD装置を実現できたポイントは、従来と全く異なる気化装置を開発できたことにある。「誰でも好きなときに止められて、好きなような成膜ができる」(気化器を開発した山形大学工学部の都田昌之教授)ものを目指し、従来と抜本的に異なる構造の気化器を開発した。

 従来からMOCVD装置はあったが、同社の装置は高品質な薄膜ができるだけでなく、目詰まりしない気化器がポイント。これまで溶かした溶剤を暖めていた発想を逆転。「冷やして、吹き出す瞬間まで液体でいるようにしよう。霧が出た瞬間に周りの熱を受けて一気に気化する」(都田教授)方法を取った。「ただし冷やしすぎると原料の濃度が変わってしまう。また輻射熱を防ぐために、いかに小さな穴であればいいのかを求めるのが苦労した点」と都田教授は言う。


新開発の気化器。溶媒に溶けた材料を液体のまま運び、超高速ガスの噴射により微細噴霧化させる

新しい気化装置が数々のメリットを

 MOCVD装置によって可能になるのはFeRAMの量産だけではない。「いろいろな有機金属に対応できるようにしようというのが、最初からの開発ポイント」と戸田教授。

 これまでスパッタを使っていたような、さまざまな金属による配線やバリアメタルについても、MOCVDを使って生産効率を上げられると同社は期待している。「この気化器が開発されたことで、ガスソースではなく固体の材料を使うことができる。するとこれまでCDVで作れなかった、カッパー(銅配線)もできるようになる。またタンタルナイトライトなどのバリアメタルは現在スパッタだが、これをCVD法で作ることができる」(矢元氏)。

 また「この気化器では薄膜を非常に高速に形成することができる」(矢元氏)ため、1ミクロン、2ミクロンといった膜を多用する電子部品などにも利用できるという。

 「MOCVDでなければいい膜ができない。そういうものがこれから出てくる。我々はそれに期待している」(楠原社長)。



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▼ 渡辺商行

[斎藤健二, ITmedia]

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