Mobile&Movie 第64回
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作品名 | 六月の蛇 |
監督 | 塚本晋也 |
制作年・製作国 | 2002年日本作品 |
「鉄男」で衝撃的なデビューを果たし、その後「バレット・バレエ」「双生児」など独自の映像美で、日本はもとより世界中でマニアを増殖し続けている塚本晋也監督。これまで金属ドリル、ピアス、拳銃など、塚本作品にはさまざまなモチーフが登場していますが、最新作で狂気の愛を伝えるアイテムに選ばれたのは携帯電話。じかに触れ合わない、機械越しのコミュニケーションで、どこまで人を愛せるのでしょうか。
雨の降りしきる六月の東京。潔癖症の夫・重彦と生真面目な妻・りん子は、歳は離れていますがどこか性格の似た夫婦として、表面上は仲良く暮らしていました。りん子は、電話相談室のカウンセラーとして働き、悩みを持つ人の話を聞くのが仕事です。
「ちょっと死のうかと思いまして」
そんな相手を励まし、立ち直らせようと力を尽くしていました。
家に帰れば主婦として、神経質な夫が満足するように家事を完璧にこなすりん子。少しでも部屋が汚れていようものなら、重彦は猛然と掃除を始めるのです。りん子が自由でいられるのは、サラリーマンである夫の帰りが遅い時、1人でいられるわずかな時間だけ。
ある日、りん子のもとに封筒が続きます。その中には、りん子を盗み撮りした何枚もの写真と携帯電話が。誰にも見られたくない姿を覗かれ写真に撮られていたことに、りん子は愕然とします。そして、鳴り出した携帯電話。
「ネガを返してほしかったら、言うとおりにしろ」
電話の声は、以前りん子が電話相談で話を聞いて、自殺を思いとどまった男、道郎でした。
「こんなこそこそしたやり方、卑怯よ」
りん子は道郎をなじりますが、道郎は自信に満ちた声で答えます。
「やりたかったことをやって下さい」
夫には絶対秘密にしておきたいりん子は、しかたなく道郎の要求に応じることにします。道郎は携帯電話でりん子に命令します。
「短いスカートを履いて、町に出て下さい」
りん子の姿を一眼レフカメラのレンズ越しに覗く道郎。顔に浮かぶ恥じらいの表情にさらに声を荒げます。
「人目なんて気にしないで見せつけてやればいい」
命令通りに動くりん子にシャッターを切る道郎。インカムにささやく言葉は
「一緒に地獄に行きましょう」
りん子は恐怖と恥辱にもがき苦しみながらも、自分の中で何かが変わっていくのを感じます。そして道郎の狂気さえ、歓喜の愛として受け入れていくのです。いつしか、重彦に気付かれることも覚悟し、道郎の要求に答え続けるりん子。しかし、止まない雨がないように、声だけで顔も分からない道郎との不思議な関係に、やがて終幕が訪れます。
青く縁取られたモノクロームが美しい世界、湿った愛と歪んだエロスに酔いしれる作品です。もしもあなたが、隠し撮りされた写真と携帯電話を受け取ったら……どうしますか。
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