Mobile:NEWS 2003年6月2日 10:25 PM 更新

Mobile&Movie 第64回
六月の蛇「一緒に地獄に行きましょう」

映画の中の名脇役として登場する“モバイル製品”を紹介する「Mobile&Movie」。今回は携帯電話越しの見知らぬ相手と狂気の愛に落ちていく女を描く「六月の蛇」。auの携帯電話が不可思議な愛情を育みます

作品名六月の蛇
監督塚本晋也
制作年・製作国2002年日本作品


 「鉄男」で衝撃的なデビューを果たし、その後「バレット・バレエ」「双生児」など独自の映像美で、日本はもとより世界中でマニアを増殖し続けている塚本晋也監督。これまで金属ドリル、ピアス、拳銃など、塚本作品にはさまざまなモチーフが登場していますが、最新作で狂気の愛を伝えるアイテムに選ばれたのは携帯電話。じかに触れ合わない、機械越しのコミュニケーションで、どこまで人を愛せるのでしょうか。

 雨の降りしきる六月の東京。潔癖症の夫・重彦と生真面目な妻・りん子は、歳は離れていますがどこか性格の似た夫婦として、表面上は仲良く暮らしていました。りん子は、電話相談室のカウンセラーとして働き、悩みを持つ人の話を聞くのが仕事です。

「ちょっと死のうかと思いまして」

 そんな相手を励まし、立ち直らせようと力を尽くしていました。

 家に帰れば主婦として、神経質な夫が満足するように家事を完璧にこなすりん子。少しでも部屋が汚れていようものなら、重彦は猛然と掃除を始めるのです。りん子が自由でいられるのは、サラリーマンである夫の帰りが遅い時、1人でいられるわずかな時間だけ。

 ある日、りん子のもとに封筒が続きます。その中には、りん子を盗み撮りした何枚もの写真と携帯電話が。誰にも見られたくない姿を覗かれ写真に撮られていたことに、りん子は愕然とします。そして、鳴り出した携帯電話。

「ネガを返してほしかったら、言うとおりにしろ」

 電話の声は、以前りん子が電話相談で話を聞いて、自殺を思いとどまった男、道郎でした。

「こんなこそこそしたやり方、卑怯よ」

 りん子は道郎をなじりますが、道郎は自信に満ちた声で答えます。

「やりたかったことをやって下さい」

 夫には絶対秘密にしておきたいりん子は、しかたなく道郎の要求に応じることにします。道郎は携帯電話でりん子に命令します。

「短いスカートを履いて、町に出て下さい」

 りん子の姿を一眼レフカメラのレンズ越しに覗く道郎。顔に浮かぶ恥じらいの表情にさらに声を荒げます。

「人目なんて気にしないで見せつけてやればいい」

 命令通りに動くりん子にシャッターを切る道郎。インカムにささやく言葉は

「一緒に地獄に行きましょう」

 りん子は恐怖と恥辱にもがき苦しみながらも、自分の中で何かが変わっていくのを感じます。そして道郎の狂気さえ、歓喜の愛として受け入れていくのです。いつしか、重彦に気付かれることも覚悟し、道郎の要求に答え続けるりん子。しかし、止まない雨がないように、声だけで顔も分からない道郎との不思議な関係に、やがて終幕が訪れます。

 青く縁取られたモノクロームが美しい世界、湿った愛と歪んだエロスに酔いしれる作品です。もしもあなたが、隠し撮りされた写真と携帯電話を受け取ったら……どうしますか。

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[本田亜友子, ITmedia]

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