Mobile:NEWS 2003年6月9日 04:27 AM 更新

「ケータイ先進国日本」は復活するのか?
ARPU、1000円増加を可能にするサービスとは?(1)

世界でもトップクラスのARPU(ユーザ1人当たりの月間利用料金)をビジネスモデルとするケータイ先進国日本。今回は、そのARPUの現状をいくつかの面から整理する。

 ARPU(用語)は、音声ARPUとデータARPUから成り立っているのはご存知のことと思う。ではまず、音声会話に対してどこまでデータARPUを向上させることができるのか。

 この値を類推するために、携帯電話が音声通信で主に使われている米国のARPUを見てみることにしよう。一般的に米国は、日本や欧州などに比べ、モバイルインターネットサービスが普及していないとみられている。1億4000万もの携帯電話ユーザが存在する中で、音声通話以外の目的で利用しているのは1000万程度に過ぎないとみられ、データ通信市場は依然として小さい。米国をサンプルにして音声 ARPU に関する考察を行ってみる。

 下記に米国Technology Business Research, Inc. が4月に発表した2002年第4四半期における米国の携帯電話会社の競合ベンチマークを示す(同調査会社のWeb参照)。

採点順位オペレータARPUシェア
第1位Verizon Wireless49ドル 22.90%
第2位Nextel69ドル 7.50%
(US$1=117.21円換算で8,087円)
第3位Cingular Wireless51ドル 15.40%
第4位Sprint PCS62ドル 10.40%
第5位 (同位2社)AT&T Wireless60ドル 14.70%
第5位 (同位2社)T-Mobile USA50ドル 7.20%

 この順位付けは、ARPUやマーケット・シェアだけではなく、加入者増加率、売上増加率、収益率などの財務状況、ネットワーク・インフラの整備状況などで重み付けされ、採点されている。

 ここでベンチマークでは第2位、シェアでも第5位だが、トップのARPUを誇るNextel を見てみよう。

 Nextelは、同社の携帯端末同士に限っては、トランシーバのように双方向で無料会話が出来るDirect Connect機能を提供している(1月7日の記事参照)。公共の電話ネットワークに頼っていないため、2001年9月の米同時多発テロ時でも携帯の混雑や電話線の混雑の影響を受けることはなかった。

 現在この対応端末は、連邦、州、市郡の政府機関や、米国赤十字などの緊急支援団体に多く貸し出されている。未だにカメラやブラウザフォンの浸透が少ない米国にあっては、音声主体でも高いARPUが獲得できるモデルとして評価される。

 “無料会話サービスが、有料音声ARPU を引き上げる”。一見矛盾するようだが、サービスのユニークさにおいて、極限まで音声ARPU を引き上げている例だと我々は考えている。

 各国の物価・所得水準というパラメータを排除するために1人あたりのGDPでノーマライズすると、米国のARPUは約2.0%となる。まずこの値を音声ARPUのみの限界値として仮定する。各人の家計の中で、“通信費”として払える金額が2.0%だと見ることもできる。


※ 各事業者発表資料からザイオンで試算

データARPU

 次にデータARPUを見てみよう。モバイルインターネット市場でアグレッシブな動きを見せている、お隣、韓国との比較を行ってみたい。北米との音声ARPUの比較において、GDPでノーマライズを行ったので、ここでも同様にGDPという視点でみてみたい。日本、韓国それぞれで1人あたりのGDPに対するARPU比率は、日本は米国と同程度の1.7−2.5% 、韓国は3〜4%である(2002年)。

 ここで前述した米国のARPUが音声ARPUの限界と仮定して、韓国のARPUを見ると、【(3%〜4%)−(2.0%)】という数字の差が出る。つまり韓国ではGDP比率で1.0−2.0%に相当する金額を、音声コミュニケーション以外の何かに対して支払っていることなる。

 さて、消費者はケータイに支払っている金額を実際どのように捉えているのであろうか? 間違いなく少し前までは電話代という感覚を持っていたであろう。

 最近テレビで、「携帯電話に余計なお金を使うのは……」といったコマーシャルも放映されているが、これもまた消費者により、様々な捉え方があろう。おそらく年齢や性別、職種や携帯電話に対する期待、意識等、多数のセグメントが存在し、その中で捉え方も多岐に渡ることは周知である。

 可処分所得という視点(もちろんお小遣いという見方もある)で捉えることよりも、生活の中の道具として携帯電話を見た視点で、今後考察を進めてみたい。すなわち、電話代として表現できない視点、言い換えると可処分所得における通信費ではなく、それ以外のカテゴリからデータARPUへの誘導という視点での考察が必要だと考えている。

 さて、日本は現在、ケータイ人口7600万人。多くの加入者が気持ち良く1000円余分に支払うサービスとはどんなものが考えられるか、次回以降いくつかの面から考察を進めていく。

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著者紹介
福本靖:株式会社ザイオン取締役コンサルティング事業部長。日本ヒューレット・パッカード時代から多くのネットワークおよびモバイル・ビジネスに従事。「LANネットワーク管理技法」「Kornel Terplan」の著作もある。



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▼ ザイオン

[ザイオン 福本靖, ITmedia]

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