Mobile:NEWS 2003年7月4日 01:14 AM 更新

低温ポリシリコンTFTの本当のメリットとは?

低温ポリシリコンTFTは、液晶パネルの周辺回路を内蔵できることが大きな特徴の1つ。将来的にはCPUやメモリなどの統合も期待されている。しかしモバイル機器向けディスプレイでは、いったん液晶パネル上に統合された周辺回路が外付けへ変更されたりしている。

 次世代モバイルディスプレイの基礎技術として、脚光を浴びる低温ポリシリコンTFT(LTPS、2002年10月の記事参照)。そのメリットとして、さまざまな周辺回路を液晶パネルに統合できることが言われている。

 確かに、LTPSのほとんどは液晶を駆動するドライバを統合しており、それによって狭額縁化、高精細化が可能になった。また、シャープはLTPSの一種であるCGシリコンを使い液晶にCPUを内蔵する技術も開発している(2002年22型の記事参照)。


アモルファスシリコンTFT(A-Si TFT)は外付けの駆動ドライバLSIが必要。小型液晶を高精細化するにはドライバを載せるスペースに限界があった。LTPSでは、ドライバ回路を基板上に載せられるため、額縁を小さくしたり高精細化が行える

 しかし、「載せられるものは何でもLTPS上に載せればいい」というわけではない。

実際にはなかなか進まない周辺回路の内蔵

 実際には、携帯向けLTPSでは周辺回路の統合はそれほど進んでいない。それどころか、いったん統合された回路が外に出されている状況だ。

 東京ビッグサイトで開催している「フラットパネルディスプレイ製造技術展」の技術セミナーで各社の技術者がLTPSの現状を話した。

 LTPSへの周辺回路内蔵の研究は盛んだが、実商品では、「(周辺回路は)実際は逆に出ていっている。インテグレーションには低消費電力化が壁だ」と三洋電機ディスプレイカンパニーの横山良一氏は話す。

 三洋電機の携帯電話向けLTPS液晶は、当初はドライバやHスイッチなど複数の周辺回路を統合していた。ところが最新型では統合しているのはVドライバ、RGBスイッチだけだ。PDA向け液晶では、統合していたレベルシフターを最新型で取り除いている。

 これはモバイル機器で最優先される消費電力を抑えるためだ。確かにLTPS上にはさまざまな回路を形成できるが、LSIが3.3〜5ボルト程度で動作させられるのに対し、現状LTPS上の回路は8〜12ボルトが必要。「一番差が大きいのが消費電力。電圧が大きく違うから差がつく」(シャープシステム液晶第1事業部の久保田靖氏)

 その結果、統合化のトレンドに逆行して外部に周辺回路を追い出したほうが低消費電力となってしまう。三洋電機の携帯向け液晶パネルの消費電力は、駆動LSIとLCDパネルを合わせて6ミリワット(1.9インチ、QCIF)。これがDACまで統合した開発品(2.2インチ、CIF+)では、「駆動LSIを合わせると100ミリワットを超えてしまう。実用レベルではない」(横山氏)。


三洋が示した周辺回路を統合したLCDパネルの消費電力ロードマップ

 コスト的には外付けのLSIを使うほうが高く、「こんなLSIでも300円や400円じゃ収まらない」と横山氏は言う。それでも携帯電話の場合、消費電力の低下が優先されるわけだ。

LSIと得意な分野を住み分ける

 結局、LTPS上に回路を形成する場合、外付けLSIを使った場合と、コストや消費電力、性能の面で比較することになる。久保田氏は「対LSIとしてどうやるか。性能で100倍の差があると、単体で勝負しても負けてしまう」と話す。

 では、どんな回路なら統合する価値があるのか。シャープの久保田氏と三洋の横山氏が共に候補として挙げるのは、面積が必要なデバイスだ。どうせ大きくなってしまうLSIなら、大きさが気にならない機能を盛り込もうというわけだ。

 久保田氏は、タッチスクリーンや光センサー、指紋認証、温度センサーなどをLTPSに埋め込むという例を挙げる。「液晶なので、2次元的に広がっている部分を生かしたい。センシングデバイスとの相性がいい」

 横山氏が挙げるのは、既に実用化しているという指紋センサーだ。「指紋センサーなので面積が必要になる。シュリンクできないから非常に向いている」


 もちろん、将来的に技術が進めばLTPSに組み込んでメリットが出る回路はさまざまだ。課題となるのは、微細化と電子の高速移動化、TFTの閾値電圧の三つだと横山氏。

 微細化を進めてゲート長を短くすれば、低電圧化で増加する遅延時間に対処できるという。電子の移動度を高めることで、高周波駆動しても電子が追従できるほか、小型化して抵抗値が上がっても電子が効率よく流れる、低電圧でも十分な電子が供給できるという利点がある。

 シャープがシステム化のゴールとして目指すのは、CPUから無線LANまですべてを液晶パネル上に統合したシートコンピュータ(2002年10月の記事参照)。そのための第一歩として、20M〜30MHz程度の周波数で回路を動かせるLTPSの開発を進めている。電子移動度は400cm2/Vs、デザインルールは0.8マイクロメートルを2005年には実用化するとしている。

 三洋の横山氏が携帯向けディスプレイへの統合を目指しているのは、DAC(デジタルアナログコンバータ)やメモリ、タイミングコントローラなどだ。2005年には、移動度300cm2/Vs、デザインルール1マイクロメートルを実現し、8ビットのDAC、XGA相当の表示が可能なスピードを持つタイミングコントローラの搭載を狙う。画素メモリ(2001年4月の記事参照)については2005年時点でも2〜3ビットまでしか載せられず、「まだ容量が足りない。ハードルが高い」。


シャープが示したシステム液晶のロードマップ(上)。三洋が示したLTPS TFT LCDのロードマップ(下)

LTPS上にCPU──への道

 シャープシステム液晶第1事業部の久保田靖氏によると、CPUのように単結晶シリコン上に形成する回路と比べると、LTPS上に形成する回路は「20年かそれくらいの遅れがある」。

 半導体回路のスピードを決める要素としては、電子の移動度、トランジスタのゲート長、駆動電圧などの要素があると久保田氏。

 アモルファスシリコンTFT(a-Si)で0.5cm2/Vs程度だった移動度は、LTPSで現状200cm2/Vs程度、将来は400cm2/Vsと単結晶シリコンに追いつくところまで来たが、「微細化が追いつかない」。

 現状のLTPSが「3マイクロ、4マイクロ」(三洋の横山氏)なのに対し、単結晶シリコンは0.15マイクロメートル以上まで製造プロセスが進んでいる。LTPSで見えているのは、0.8マイクロメートルあたりまでだ。駆動電圧も単結晶シリコンが2.5ボルト程度なのに対し、LTPSは12ボルト。将来的には5ボルトを見込むが、まだまだ低電圧化が必要だ。

 結果、最終的な回路の速さは、LTPSよりも単結晶シリコンが300倍速い。LTPSが進化しても、まだ10倍以上の差が出てしまうという。

 液晶パネル上にCPUを統合できる──とはいっても、性能面でLSIに追いつくのは難しい。


シャープが示したアモルファスシリコンTFT(a-Si)、低温ポリシリコン(p-Si)、単結晶シリコン(c-Si)のデバイス性能の比較



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[斎藤健二, ITmedia]

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