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2003年10月3日 04:45 PM 更新
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「ケータイ」先進国日本」は復活するのか?
モバイルコマースの可能性(2)
インターネット販売が順調に伸びる中、モバイルコマース市場はどんな状況にあるのだろうか。市場の現状と各キャリアの動向から探ってみる。
モバイルコマースが市場で話題に上るようになってから久しい。既に2000年10月にNTT-Xと三菱総合研究所が発表した、「第2回iモード利用状況に関する調査」には、モバイルコマースを利用したことがある人は2割という結果が出ていた。3年が経った今、読者の方々の実感はいかがであろう。
今回はこうした市場の現状を見ながら、モバイルコマースの現状を探ってみる。
モバイルコマースに限らず取り沙汰されるのは、個人情報やクレジットカード情報の漏洩に対する懸念や通信コストなどがある。しかし多くの議論の中心は決済方法であり、決済方法を取り巻くテクノロジーに対する議論が多い。
しかしその前に、消費者の購買行動における携帯電話の位置付けをもう一度確認する必要がある。
Eコマースにおける購買行動
最近、ECサイトを運営している販売店の方と議論をする機会があった。その中で、「昨年からインターネットでの販売が順調に伸びており、店舗販売に加え本格的にインターネット販売を強化したい」という話題になった。支払方法について見てみると、銀行振込が最も多く、この傾向は以前と大きくは変わらないということだった。
いずれにしても、ブロードバンドの浸透により顧客に的確で魅力的な情報を提供する基盤はでき上がり、さまざまな決済方法が提供されることで、Eコマースの利用障壁が下がったのは間違いない。消費行動の中で、インターネットは既にその役割とポジションを確立しつつあるといえる。
つまり消費者はネットワークから情報を収集し、商品購入やサービスの購入を決断するというところまでは行うようになってきている。その行動が意識的かどうかはさて置き、購買行動の中の一部分を担うようになってきたわけだ。
これを裏付けるような記事が、2003年9月12日付けの日経産業新聞に掲載された「プロバイダ調査から」の3回目の記事である。
この記事の中でインターネット利用者は電子商取引に「安さ」を求めるなど強い価格志向を持っており、個人情報やクレジットカード情報の漏洩に対する懸念が根強く、決済は振り込みの利用が多いとなっている。そして実に78%がEC利用経験者であるということが述べられている。
インターネットは、購買行動の中の一部分を担っている──。すなわち情報を収集し、次の行動へ移るまでは実施するようになってきた。
コマースを購買行動全体と捉え、「購買欲求」「情報収集(例えば、ウィンドウショッピング)」「購入・支払い(ショッピング、決済)」「商品評価・情報発信」という段階があると想定するなら、現在は「ショッピング」の段階、言いかえると、「Eショッピング」という段階だといえよう。
モバイルコマースの現状
さて、モバイルコマースはどの段階にあるのか。Eコマースと同じような発展をするのだろうか。
さまざまな調査機関で携帯電話の利用調査を実施しているが、いずれの結果を見ても有料サービスやコンテンツ(着メロ、着うた、壁紙など)の購入経験は高い数値を示す一方で、商品購入経験に関してはまだまだ少ない。
いつでもどこでも常に携帯しているからこそ、事業者から見ると利便性の高いアクセスチャネルとしての意味があり、さらに消費者が購買意欲をかき立てられたその瞬間に、買い物ができるツールとしての携帯電話であるという事実にも関わらず、購買行動の最終段階、すなわち「決済をする」という段階にまで至るケースが少ないということである。
これについてはさまざまな意見がある。過去Eコマースが世に登場したとき「インターネットで買い物はしない」といわれたのと同様、「携帯電話で買い物なんて」という意見もあれば、デバイスとしての携帯電話の表現力の限界をを挙げる意見もある。
はたしてそうであろうか。そもそも、Eコマースと同じ方法を携帯電話上に実現させても、同じようなモチベーションで利用するユーザがどのくらいいるのか疑問である。そもそも、Eコマースと同じ方法を携帯電話上に実現をさせても、購買行動の中で各段階を越えていくための動機付け、すなわちモチベーションは異なっていると考える方が自然であろう。
インターネット帯域の向上と常時接続は、豊かな表現力で情報を消費者に届けることが可能となり、そこで提供される検索サービスやネットサーフィンをストレスなく行える環境──それは少なからず購買行動の中で、消費者が次の段階へ移るためのモチベーションを高める。言いかえると“買う気にさせる“ことが可能となった。つまり、インターネットでのEショッピング段階への障壁が下がったのである。
一方のモバイルコマースでは、調査状況と現実を鑑みると、「購買意欲を持つ」後の段階、「情報を収集する」という段階へ移る際に一つのハードルが存在する状況なのではないだろうか。
通信キャリアの新しい収益の柱
とはいえ各事業者は、新しい収益の一つとしてコマースを見ている。
ドコモが5月に発表した「DoCommerce」ではクレジット決済に加え、8月下旬にはコンビニ決済サービスが始まり(8月20日の記事参照)。加えて、NTTドコモの電話料金に合わせて支払いが行える請求代行サービスも開始された(6月3日の記事参照)。
KDDIでは、au電話の利用料金に合わせて支払いができる「プレミアムEZ回収代行サービス」を提供している(7月3日の記事参照)。また、Kei-Creditのトライアルも終了し(2002年12月の記事参照)、その後の本格展開を含め注目したいところである。
ボーダフォンは、モバイルコマースの先駆者的に「SKY CHECKサービス」(用語参照)を提供していたが、残念なことに6月末で新規会員登録、加盟店登録を中止している(6月26日の記事参照)。Vodafoneブランド統一後の新たな展開を期待したいところである。
携帯事業者のモバイルコマースに対する取り組みは、この1−2年でさまざまな動きを見せている。これらを鑑みると、本格的なモバイルコマースがまさにこれから始動するという期待感が高い。展開のための技術と基盤は用意された。残るは市場と、そして消費者のモチベーションなのかもしれない。
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著者紹介
福本靖:株式会社ザイオン取締役コンサルティング事業部長。日本ヒューレット・パッカード時代から多くのネットワークおよびモバイル・ビジネスに従事。「LANネットワーク管理技法」「Kornel Terplan」の著作もある。
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[ザイオン 福本靖, ITmedia]
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