Mobile:NEWS 2003年11月11日 05:47 PM 更新

IT国家日本はどこに行く?〜「R-クリック」の謎

六本木ヒルズで試験運用中の「R-クリック」は、RFIDタグと携帯電話を使って、場所と個人のプロファイルに応じた情報配信を行うもの。IT国家日本をアピールするためのプロジェクトだが、うまく稼動するまでには少し時間がかかりそうだ。

 11月1日から試験運用が開始された(9月29日の記事参照)、六本木ヒルズの「R-クリックサービス」(以下R-クリック)を体験してきた(10月30日の記事参照)。R-クリックとは、RFIDタグ(用語)と携帯電話を利用して、ユーザのニーズにあった情報をケータイメールで配信するサービスだ。

誰が何のために行っているのか?

 この実験、いったい誰が何のために行っているのだろう。これを説明するのは、実はかなり難しい。単純に見れば六本木ヒルズのオーナー企業である森ビルと、無線通信インフラを担当するNTTドコモの共同実験という趣だ。なるほど、森ビルは建物の付加価値を上げればテナントからの賃料にいくばくかを付加して回収できるし、ドコモは情報配信にiモード端末を使えば、利用者にパケット代を課金できる。だがここに、政府の「e-Japan戦略」が絡んでくることで、話が一気にややこしくなる。

 「e-Japan戦略」は2001年1月22日、当時のIT戦略本部が「2005年に世界最先端のIT国家になること」を目指して掲げられた宣言。同年3月の「e-Japan重点計画」、同年6月の「e-Japan2002プログラム」、2002年6月の「e-Japan重点計画-2002」(5月10日の記事参照)が、その具体的行動の中身となる。ちなみに現在は、2003年8月に発表された「e-Japan戦略II(元気。安心・感動・便利社会を目指す)」のもと「e-Japan重点計画-2003」を実施中だ(……って、知ってました?)。

 そのe-Japan2002プログラムの中に、「e!(イービックリ)プロジェクト」という、これまたびっくりするような名前の施策が存在する。2005年になって世界最先端のIT国家となっているはずの日本の姿を、今、具体的な形にして見せようというのだ。もちろん日本全国でこのような施策を行うのは無理。そこで特別な場所を指定し、時間とお金をかけて「IT国家としてのあるべき姿」を構築するわけだ。こうした場所や設備を「ITショーケース」と呼ぶ。


R-クリックの裏側には、ITショーケース事業というシールが貼られている。これがe!プロジェクトの一環として行われていることを示す

派手な仕掛けの理由

 ITショーケースは、未来の姿を分かりやすく国民に示すことを目的に、最先端技術を実験的に投入する。つまり、商用サービスを目前に控えた実験ではなく、あくまで実験のための実験ということだ。そして実験を見せる対象には、来日する外国人が含まれている。つまり六本木でR-クリックを使うわれわれは、日本国民の代表としてシステムを理解し、使っている姿を海外からのお客さんにアピールする必要があるのだ。

 人に見せることを意識したシステムだから、端末はかわいらしく作られているし、地面に描かれた赤いエリア表示マークも派手で目立つ。確かにこれなら、まったく知らない人にも「R-クリックって何だ?」と興味を持ってもらえるかもしれない。

 だが六本木ヒルズにおいては、周りが派手すぎるからか、今のところ第三者に意識されている様子はない。地面にある六本木ヒルズのキャラクター「ロクロク星人」の絵のほうが、大きくて目立つのも理由の一つだろう。


モニター参加者に渡されるセット。本体と一緒に、エリアマップとロゴ入りネックストラップが付いてくる。強制されてはいないが、これを首にかけて目立つように歩いてほしいのだろうか

開始早々、「あら探し」で気が引けるが……

 受け取ったマップを見ると、本体の写真とともに各部の名称と説明が載っていた。ボタン、発光部分、信号発信と書かれている。発光部分は、内蔵された赤いLEDのことと分かるが、問題は信号発信だ。用語も変だが、実際にそんな機能があるのだろうか。本体に小さな溝があるが、アンテナが出てるわけではないし、そもそもRFIDタグは無指向性ではないのだろうか。試しに女性スタッフにこれを見せてから使ってもらったところ、この溝をパネルに向けてボタンを押していた。


信号発信の記述に「まさか」とは思いながらも、本体カバーを開けてみた。指向性の影響を受けそうな部品配置にはなっていない。当該箇所にある溝は、マイナスドライバーなどの工具を差し込むための単なるキリカキであった

 さらにマップをよく見ると、「おや? ここは違うぞ」というものに気づいてしまった。本体のロゴマークが上下さかさまなのである。「こんなものに上も下もないよ」という意見もあるだろうが、地面のマークとも明らかに違っている。もちろん向きが逆でも使えないことはないが、先ほどの信号発信のこだわりに意味がなくなってしまう。ここで筆者は確信した。誰かがロゴの印刷指示を間違えたのだと……。仮に推測どおりだとしたら、その理由はわからないでもない。何しろこのロゴ自体、どちらが上なのかよく分からないからだ。


マップとタグの比較


地面のマーク


6本の木(=六本木)を表す6つの輪と、地名のアルファベットを組み合わせたロゴ(左)。アルファベットがなく、輪だけのものもあり(右)、今回の印刷ミス(?)はここから発生したようだ

 最後に配信サービスの一つ「ぷらっとキャッチ」のエピソードを紹介しよう。体験中に飲食店の割引情報が届いたこともあり、そこで食事することにした。届いたメールには「このメール画面とR-クリックを提示すれば5%割引」と書かれている。

 清算時にそのことを告げ、話はすぐに通じたのだが、5%割引くシステムができていない(もしくは不調)らしく、打ち出されたレシートの消費税部分をボールペンで消して、手書き処理をしていた。この実験が国民に理解されるにはもう少し時間がかかりそうだ。

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関連リンク
▼ 六本木ヒルズ R-クリックモニター募集
▼ NTTドコモ ニュースリリース
▼ ITショーケース
▼ 首相官邸 IT戦略本部
▼ 「六本木ヒルズ」ロゴマーク決定
▼ 六本木ヒルズキャラクター「ロクロク星人」

[江戸川, ITmedia]

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