Mobile:NEWS 2003年12月22日 03:12 PM 更新

ナンバーポータビリティ、欧州の現実

ほかのキャリアに移行しても、使っていた電話番号をそのまま引き継げるというのが、“番号ポータビリティ”。欧州では既にこの制度の導入が始まっているものの、利用者はそれほど多くない。“使われない理由”を探ってみる。

 携帯電話のオペレーターを変換しても同じ番号を維持できるナンバーポータビリティ(用語参照)、欧州ではEU(欧州連合)の指示により、各加盟国で導入が進んでいる。これまでのところ、英、独、ベルギー、フランスなどで開始されている。

 どの国でもこれまでのところ、このナンバーポータビリティ制度を実際に利用してオペレーター(通信キャリア)を乗り換えたユーザーの割合は5%未満といわれている。同制度の目標は、競争の奨励と消費者の利便のためだが、消費者側の認知不足や、手続きのややこしさなどの問題が指摘されていることが多い。

3カ月で利用はわずか1250件〜フランスの場合

 今年6月30日に導入されたフランスの場合、ART(仏電気通信規制局)の指導と監視の下で開始した。同制度導入前に消費者団体が行ったアンケートでは、「手続きが無料ならオペレーターを変えることに興味がある」と回答した人は約半数あったというが、開始三カ月後の9月末の時点で、何らかの段階までプロセスを踏んだのは4万件で、実際に乗り換えたのはわずか1250件。フランスのモバイルユーザー総数が約4000万といわれていることを考えると、極めて低い利用率だ(注意すべき点として、7、8月はバカンスシーズンのため、消費活動が大幅に減少することがある)。

 もう一つ興味深い数字として、大手端末ショップのThe Phone Houseが発表したデータがある。それによると、ナンバーポータビリティ制度導入後、同社が販売した新規契約の中で、同制度を利用した契約は2%を占めたに過ぎなかったという。

 低い利用率の原因を探ってみると、まず、ユーザーの認知の低さが挙げられる。制度導入前後は各種メディアが報じたが、消費者に一番近い存在であるオペレーターは、いまでも自社に不利になりかねない情報の発信に後ろ向きだ。

 次に手続きの面倒さがある。簡単に手順を説明すると、まず既存のオペレーターと契約を解消するが、この際、電話番号を維持したい旨を伝える。オペレーターは通知後15日以内に、“Bon de Partage”という引換券をユーザーに送付する。ユーザーはこの引換券を持って有効期限内(約一カ月)に新規オペレーターと契約を結ぶのだが、この手続きにさらに15日間を要する。つまり、最短でも一カ月は必要となるわけだ。オペレーターや契約の種類にもよるが、契約解消手続きは通常ニカ月以上前に行わなければならないことが多い。となると、全プロセスが完了するまでには、三カ月かかることになる。

 これを面倒と思うユーザーもいるだろうし、乗り換えたいオペレーターがこれに値するほど魅力的だというユーザーもいるだろう。ただ、3カ月というのが、腰がひける数字であることは否定できない。

価格は有料から無料へ

 この手続きにいくらかかるのか。6月30日の導入時、ARTは消費者団体の反発を押し切って、15.2ユーロ(約1900円)という標準価格を設定した。だが、スタート直前にシェア最小のBouygues Telecomが乗り換えユーザーを呼び込むために、この15.2ユーロを無料としたため(Bouyguesは、ほかにも月1時間の無料通話などのサービスも含んだ“移行パック”を用意した)、その他のオペレーターもこれに追随して、期間限定で移行手続きを無料とした。期間限定というものの、すでに期間は延長されていることから、当面は事実上無料となりそうだ。

 ARTは、10月に数字を発表した際、楽観的な予測を出している。それによると、すでに導入した他のEU各国と同じように、利用率は今後徐々に増加し、他国レベルの1−3%に落ち着くだろうという見方だ。特に大きな混乱がなかったことから、オペレーターの協調関係は保たれており、ユーザーの“学習期間”を経るだけという。

 だが関係者の多くは、プロセスに要する期間が短縮されない限り、利用は進まないと見ている。端末ショップのPhone Houseでは、手続きを簡素化・省略することにより、先の数字は15−20%まで伸びるとの予想を出している。

 ちなみに、ベルギーやスペインなど他のEU諸国では移行にかかる日数は一カ月未満だ。フランスの15日+15日は技術的理由によるものではなく、(ユーザーを失いたくない)オペレーター間の申し合わせが背景にあると現地ジャーナリストは述べている。

利用動向は未だ傾向見えず

 これまでのところ、ナンバーポータビリティを利用した人は、乗り換えの理由として、サービス内容、料金、カバーエリアなどを挙げている。反対に、相手のオペレーターが分らなくなることは不便だという声も上がっている。フランスの携帯電話番号は最初の4桁でどのオペレーターかが分るようになっており、オペレーター各社は同じオペレーター間の通話に割引サービスを用意していることが多い。ARTが普及活動の一環として開催した公開チャットでは、相手がナンバーポータビリティを利用してオペレーターを変えていた場合、このサービスが利用できなくなるという声が上がっていた。

 導入からニ年が経過したベルギーでは、規制局IBPTにより、手続きにかかる費用は無料と決められている。プロセスに要する日数も加盟国の中では短く、一日から可能だ。だがニ年後の今でも利用率は5%に達していないレベルで、プロバイダのシェアに大きな変動もみられない。ユーザーの満足度が高いのか、まだ手続きを簡素化する必要があるのか、そもそもユーザーは番号維持にさほどの重要性を見出さなかったのか、一致した見解は出ていない。



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[末岡洋子, ITmedia]

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