シャープな商品開発は「ユーザー主導から技術主導」へ

» 2004年01月08日 21時31分 公開
[長浜和也,ITmedia]

好調な液晶テレビが牽引するAV事業。価格競争で苦戦する家電に情報機器

「景況感が上向きに転じながらも、円高など不安材料が依然として残っている。このような2004年は、景気の回復を他力本願で期待するのではなく、自助自立の精神で乗り切らなければならない」

 1月8日に行われたシャープの年頭記者会見は、シャープ代表取締役社長町田勝彦氏のこの言葉から始まった。

 今年の年頭会見はシャープとしては初めてとなる東京と大阪の同時開催。両会場を衛星中継回線でつなぎ、大阪で行われている町田氏のスピーチや、東京会場の質問をそれぞれの会場の大型プロジェクターに映し出していた

 「昨年の年頭に“2003年は液晶テレビにとってエポックメーキングの年になる”と予言したが、液晶テレビの売り上げがブラウン管テレビを上回るなど、まさに言ったとおりになった」と液晶テレビが牽引して好調だったAV事業にたいして、前年度比110.6%と、シャープは2004年も大きな期待をかけている。半導体などのデバイス分野も、出荷が好調なデジタル家電用の影響を受けて、2003年と比べて113.2%と2年連続の二桁成長を見込んでいる。

 その一方で、著しい単価ダウンで苦戦を強いられている電化製品分野は横ばい、PCや成長がペースダウンすると見られている携帯電話などの情報通信分野も101.5%の微増と予測している。

 シャープが独自に予想する2004年度の国内需要見通し。大型液晶テレビが牽引するAV分野、デジタル家電向け需要が伸びるデバイス分野がともに二桁成長が予想されているのに対し、価格競争が激しい電化製品と情報通信分野は前年度並み。業界全体としては106.7%の成長とシャープは見込んでいる

 シャープが“業界の動向”以上に注意を払っているのが、近年大きく変化している「ユーザーの動向」。従来、自分の生活や既存の製品に対する不満を解消するために新しい製品を購入するといった「不満を解消する」消費から、いまそこにある不安に対して「自ら明日に備える」消費に変わってきていると、町田氏は説明する。

 「今の商品に対してほとんどのユーザーは不満を感じないようになっている。その代わりに、先行きの不安が続くなかで、他人任せで不安を解消するのではなく、自分で不安を解決するために消費するようになっている」(町田氏)

 このようなユーザー動向の変化によって、新技術が購入動機になる「世代替えマーケット」、ノンフロンや太陽電池などの環境的貢献が動機になる「環境役立ちマーケット」、マイナスイオンや除菌機能など自分の健康に投資する「元気・安心マーケット」といった三つの新しい市場が立ち上がるとシャープは提案している。

 とくに世代替えマーケットに対してシャープは「既存商品に不満を感じていないユーザーにも、新しい消費を生み出さなければならない。このような消費では新しい技術で大きく変化した商品が売れるようになる。商品に革命を起こさなければならない」(町田氏)と考えている。

 そして“革命を起こす”商品を生み出すために、シャープは従来の「ユーザーの不満を解消する“ユーザーオリエンテッド”な方法ではなく、新技術を採用してユーザーを驚かせるような“テクノロジーオリエンテッド”な手法で」商品開発を目指すとしている。

 シャープが考える新しい三分野のマーケット。「世代替えマーケットでは、既存技術を否定してでも新技術を反映して、アナログ時代とはまったく異なる生活を実現させる商品が必要だ」(町田氏)

液晶パネルの需要増に対応する新生産拠点への投資

 2004年の重点事業として取り上げられた液晶事業の説明では、大型液晶パネルの生産拠点として1月8日に稼動を開始した亀山工場や、中小型液晶の生産拠点として3月に新しいラインが稼動する予定の三重第3工場が紹介された。

 亀山工場の建設は3期に分けて進められているが、第2期ラインは8月に稼動する予定。第3期工事も「2004年度中の稼動を目指したい」(町田氏)としている。第3期まで含めた投資額は1500億円が見込まれている。

 大型液晶テレビの一貫生産を行うために三重県亀山市に建設された亀山工場(上)と中小型液晶パネルの生産拠点として第2期ラインを拡張中の三重第3工場(下)。第3工場の第2期ラインは3月稼動開始の予定
 携帯電話向け液晶パネルでは、カラー液晶の採用比率が2003年の50%から70%に増加し、QVGAの需要が急増するとシャープでは予想している。また、これから液晶事業の柱となるシステム液晶では、2004年に2000億円の売り上げを目指し、2005年には3000億円に拡大するとしている
 従来30インチが限界とされていた液晶テレビだが、会場にはシャープとしては初公開となる45型液晶パネル搭載テレビの試作品が展示されていた。従来315万画素だった解像度も622万画素に達するなど、PDPでは実現できないフルスペックハイビジョンの表示が可能になっている。「ここまで高解像ならテレビがIT端末として十分使えるようになる」(町田氏)。価格などの詳細は未定だが、「年内、できればオリンピックに間に合うように市販を目指す」(町田氏)

 町田氏は、液晶パネル事業で外販ビジネスに積極的に取り組むことも明らかにした。外販と内需の比率については「2004年は外販4割程度。ただし中長期的には50%程度の外販比率が理想的と考えている」(町田氏)

 液晶テレビと並んで2004年の重点事業として紹介されたのは、今年で41年めと長い歴史を誇る太陽電池事業。住宅用を中心に日本だけでなく欧米でも需要が伸びていて、2004年には20%の成長を見込んでいる。それに伴ない、現在250メガワットの生産能力を350メガワットに拡張する予定だ。

 廃止が噂されてる太陽電池取り付けに伴なう補助金支給については「最終的にはなくなるだろう。ただしその負担をユーザーに負わせるわけにはいかない。エネルギー効率の向上や材料などのコストダウンでメーカーが吸収する必要があるだろう」(町田氏)との見解を示した。

 設備投資については「2004年は2200億円を予定しており、そのうち1300億円を液晶関連に投資する。また、そのうちの1000億円は大型液晶パネルに、300億円が中小型液晶パネルに使う予定」(町田氏)と説明した。

 質疑応答では、デルなどPCからの液晶テレビ市場新規参入や、有機ELなどの取り組みについて質問がでたが、「デルなどの購入層はPCユーザーが中心。20インチ以下の市場は新規参入によって競争が激しくなるが、テレビで主流の大型液晶市場では大きな脅威として見ていない」「有機ELには寿命的な問題がまだ残っている。寿命が問題にならない携帯電話では利用が増えるだろうが、テレビ用としてはさらなるブレークスルーが必要」と回答している。

 また、苦戦を強いられている白物家電やPC事業については「白物家電は、いくら生産拠点を海外に移転しても既存技術のままではだめ。革新的な技術で“白物革命”を2004年は進めていく。技術的革新が可能なものは残していくが、それができない場合は止めることも考えなければならない。PC事業も利益を出しにくいため拡張路線はとらない。付加価値がある製品以外は出していかないようになる」(町田氏)と述べている。

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