「今年こそ、Bluetooth飛躍の年」──。関係者は毎年のようにこの言葉を口にするが、残念ながら日本では未だに普及していないのがBluetoothだ。
「今年こそは……」。オオカミ少年のようなこの言葉を信じる人はもはやいないだろう。
筆者の周りでも、「20世紀からスペックが変わっていない。世の中、これだけ変化したのに、Bluetoothだけは当時と同じまま。期待したのに……」と話す記者が多い。Bluetoothが大々的に発表されたのは、実に6年前の1998年。当時からBluetoothが描く夢に期待し、追いかけてきた記者達は、もうあきらめ顔だ。
よく知っている人ほど、普及への道が簡単ではないのを知っている。しかし「もしかして今年は……」と思わせるニュースも、いくつか舞い込んできている。
Bluetooth搭載を後押しカギとなるのは、運転中の携帯利用禁止の強化だ。警察庁は運転中に携帯を手に持って操作することに対して罰金を科す方向で改正を検討している(2003年12月の記事参照)。
これにより、キャリアも端末メーカーも「ハンズフリー」機能への対応が急務となる。
ハンズフリーは、携帯のマイクと着メロ用スピーカーを使う方法のほか、車に積んだハンズフリーシステムに携帯を接続して利用する方法がある。ここで、車載システムとの接続手段として白羽の矢が立ったのがBluetoothだ。
KDDIが発売するBluetooth内蔵端末「A5504T」は、トヨタの「G-BOOK」対応カーナビと接続してハンズフリー通話を行うことを利用例として挙げている(3月1日の記事参照)。ドコモもBluetooth内蔵のFOMA「F900iT」を春に発売する予定だが(2003年12月の記事参照)、タイミング的に車載機器とのBluetooth接続によってハンズフリーを実現してくる可能性は高い。
Bluetoothは、そもそもヘッドセットなどを使ってハンズフリーで携帯電話を使うことを想定した無線システムだ。欧米では当たり前のように携帯電話にBluetoothが内蔵されているが、使われているのはヘッドセット接続用途がほとんど。
文化の違いからか通話可能な場所に制約のある日本ではヘッドセット自体が普及していない。だが自動車内という環境では、ハンズフリー機能がBluetoothのキラーアプリケーションとなっていくだろう。
車載利用以外に、Bluetoothのメリットが発揮されそうなのがテレビ電話での利用だ。
FOMAの大きな特徴は標準搭載されたテレビ電話だが、その利用法はまだこなれているとはいえない。イヤホンマイクを接続してテレビ電話を行うのは、さすがに無理がある。端末のスピーカーを使ったハンズフリー機能を900iシリーズは充実させてきているが、送受信とも音質に難がある。画像が映るのはいいが、肝心の音声が聞き取りにくくなってしまうのではテレビ電話を利用する人は増えない。
Bluetoothヘッドセットの利用は、音質を維持しつつテレビ電話を使いやすくできる候補の1つだ。
もちろんテレビ電話のためだけにBluetoothヘッドセットを使うのは無理がある。例えば、AVプロファイルを使って携帯内の音楽データを再生し、Bluetoothヘッドセットで聞く──などの付加機能と組み合わせる必要はありそうだ。
車載にせよテレビ電話にせよ、Bluetoothが求められるシーンは、携帯電話では音声がらみになる可能性が高くなってきている。
シンプルなデータの送受信は、赤外線通信機能が既にデファクトスタンダードだ。決済や認証などは非接触ICチップ「FeliCa」に、期待は移っている。FeliCaの進化形である「NFC(Near Field Communication)」では、最大424Kbpsのデータ通信も行える(2003年12月の記事参照)。もっと大きなデータ通信では、無線LAN(IEEE802.11b)を内蔵した携帯電話が登場を始めた(2003年12月の記事参照、2月25日の記事参照)。
唯一、シンプルなイーサネットネットワークを構築できるPersonal Area Networking(PAN) プロファイルは期待できるが(2002年2月の記事参照)、どうしてもBluetoothである必要性は薄れてきている。
オオカミ少年Bluetooth──。携帯電話が手を差し伸べ始めたことで、やっと普及の兆しが見え始めた。
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