三洋、TFT駆動改良で携帯向け液晶消費電力半分に

» 2004年03月11日 16時28分 公開
[斎藤健二,ITmedia]

 三洋電機は3月11日、携帯電話向けの低温ポリシリコン液晶(LTPS)の消費電力を約2分の1に削減する新駆動方式「SmartDIDM」を開発したと発表した。当初、携帯電話向けのLTPS液晶として、2005年の第1四半期に量産に入る。生産設備の変更などは必要なく、コストも変わらないという。

 通常QVGA液晶の消費電力は12mW程度だが、新駆動方式を使うことで「6.5mWくらいになる」(三洋)見込み。携帯の場合、液晶バックライトの消費電力が2灯で100mW、4灯で200mWと消費電力の大半を占めるが、「屋外での視認性を考えて半透過型が主流になってきている。バックライトを点灯させない場合、液晶自体の消費電力も重要」(三洋)だとしている。

ドット反転駆動を改良

 液晶の消費電力は、駆動周波数と電圧の振幅で決まる。液晶の駆動方式には大きく「ライン反転駆動」と「ドット反転駆動」の2種類がある。電圧はライン反転駆動のほうが低いが、ドット反転駆動はフリッカーノイズ(ちらつき)に強く、周波数(フレームレート)を落としても視認に堪える。

フリッカーの見え方。低電圧にできるライン反転駆動が携帯向け液晶の主流だが、周波数を落とすとフリッカーが目立つ

 今回三洋は、ドット反転駆動を改良することでフリッカーが目立たないというメリットを生かしつつ、低電圧化に成功した。

ドット反転ライン反転SmartDIDM
60MHz30MHz60MHz30MHz60MHz30MHz
消費電力×
フリッカーノイズ×
パネル駆動電圧12V8.5V、-4.5V8.5V、-4.5V
ビデオ駆動電圧12V5V5V
ドライバICコスト
開口率(半透過)
開口率(透過)

三洋電機資料より。

 液晶は交流駆動しないと劣化してしまうため、プラス電圧とマイナス電圧を交互にかける。これが反転駆動の意味だ。このときライン反転駆動とドット反転駆動では電圧のかけ方が異なる。

 ドット反転駆動ではVcom(対向電極)を一定にし、ビデオ電圧としてプラス極/マイナス極に別々の電圧をかける。そのため電圧の振幅が大きく、消費電力が高いという問題があった。外から入れる駆動電圧を下げたいため、最近はライン反転駆動に大勢が移っているという。

 ライン反転駆動は、Vcomを反転させることで、ビデオ電圧の電圧振幅をドット反転駆動の2分の1に抑えている。代わりに横方向にプラスかマイナスが並ぶことになり、周波数を下げた場合に横線がフリッカーとして現れやすい。

 今回のSmartDIDMでは、ドット反転駆動と同様にVcomを一定とし、「ライン反転駆動と同様に電圧を書き込んだあと、シフトさせてドット反転駆動とする」(三洋)。シフトには、電圧を一定の値にさせるためのSC(ストレージキャパシタ:保持容量)を使う。

Vcom(対向電極)とビデオ電圧。ライン反転駆動はVcomを変化させることでビデオ電圧を抑えるが、プラスかマイナスが並んでしまいフリッカーが出やすい。ドット反転駆動はフリッカーは出にくいが、ビデオ電圧の振幅が大きい。SmartDIDMではライン反転駆動でビデオ電圧を書き込み、電荷をシフトさせてドット反転駆動とする

 この仕組みによって、電圧はライン反転駆動と同等ながら、ドット反転駆動のように周波数を下げてもフリッカーが出にくい構成が可能になった。SmartDIDMでは、通常60MHzの周波数を30MHzに下げることで、消費電力を約半分にする。

 もちろんデメリットもある。1つは電荷をシフトさせるSCラインをドットごとに引かなくてはならないことだ。「透過モードにしたときに、配線の分だけ10%以下だが開口率が下がる」(三洋)。ただし半透過型液晶では、「反射領域を配線に使えるので、デメリットは何もない」(三洋)という。

 もう1つは、消費電力を落とせるのは30MHz動作時だということだ。現状の携帯向け動画はフレームレートが15fps程度であり、30MHz動作でも問題ない。しかし地上デジタル放送などの本格的な動画を見る際には、60MHzまで周波数を上げる必要が出てくる。三洋はアプリケーションに合わせて周波数を変えることも可能だとしている。

 バックライトの消費電力や、液晶以外の消費電力が増大する中、もともと10mW程度の液晶の消費電力を減らすことが、端末全体のバッテリーのもちに大きく貢献することは考えにくい。ただし、LTPSならばSmartDIDM用の回路を簡単にドライバに内蔵できる。目立ったデメリットもなく、コストアップなしで消費電力を低下させられるのが特徴だ。

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