現在のところ、ACeSで使える機器は2種類発売されている。一つは卓上型のFR-190で、もう一つは携帯型のR190である。
卓上型のFR-190は、家屋などに固定的に設置するもので、やや大きめのお椀型のアンテナ、本体、電話機、それらを接続するための同軸ケーブルなどからなる。ACeSのシステムはGSM携帯などと同様にSIMカードを挿入するが、FR-190ではクレジットカード型のSIMカードのまま挿入する。卓上型では一般的なGSMのSIMカードは使用できないようだ。
アンテナを固定しなければならないことと、電源がACアダプタなので、持ち運びして使うのは少々辛いかもしれない。ただ、一時的に設置する仮設電話のような用途には使えるだろう。
ACeSの用途のひとつとして、山奥の建設現場や石油・鉱物の掘削現場などでの使用が考えられているが、こうした場所に中・長期的に設置するならばFR-190が向いている。
FR-190の特徴のひとつとして“価格が安い”ということが挙げられる。
ACesのサイト内にあるオンラインショップでの値段は650ドルと携帯型のR190よりも100ドル安いし、国内で販売しているセルフォンドットピーエイチでは特別価格ながら4万4800円(税込み)と、さらに破格値で売られている。ACeSは、国をまたいだシステムであるため、“安い国から仕入れる”というところに秘密があるようだ。
ACeSで使えるもう一つの機器は携帯タイプのエリクソン製R190である。こちらの方が興味がある人が多いだろう。値段はACeSのサイトで750ドルとなっている。
R190は、GSM(900MHz)とACeSのどちらでも使えるデュアルバンド方式を採用している。GSMでカバーできる範囲であれば、通常のGSMの電話機として使用し、GSMでカバーできないエリアに入ったら、衛星経由で通話するという仕組みである。
大きな衛星アンテナはGSMとACeSの両方で使用するときに、都市部などに居てGSMのみで使用する場合には小さなGSMだけのアンテナに取り換えることもできる。どちらのアンテナも標準で付属している。なお、本体の重さは210グラムと、今時の携帯電話としては重いほうであるが、使用に支障があるほど重いというわけでもない。
ACeS自身がGSMのメンバーに入ってるので、衛星と同じカードでローミングすることもできるが、一般的なSIMカードに差し替えて使用することも可能だ。ゲートウェイの無い国で使用するのであれば、その国のSIMカードを使用して通話した方が料金は安いと思われる(ただし、カードを購入した国の為替なども影響してくるのでなんとも言えない面もある)。
さてこのACeS、再三述べているように“日本では”使用できない。ただし、スポットビームは日本を網羅している。そんな中で、どんな楽しみ方があるかを考えてみると、一つ考えられるのは、日本近海の公海上での使用である。
言うまでもなく日本は海に囲まれている。縁のない人には全く縁がないが、公海(日本領土から12海里より離れた海)に出ていく人は、漁業関係やプレジャーボート愛好者などを合わせればかなりな数に上るだろう。
先述のセルフォンドットピーエイチによれば、南西諸島や大東島方面へ出漁する際の通信手段として購入した漁業関係者がいたという。さすがにこのあたりの公海上では携帯電話は通じないし、個人所有の船ではインマルサットのようなシステムを導入するほどのコストはかけられないので、ACeSは最適なのだという。ただし、大東島と沖縄本島の間のある地点でスパッと通話が切れてしまったということなので、スポットビームの境界もこのあたりにあるようだ。
本州に近い側の近海ではどうなのかとACeSの資料を見ると、日本海側にはスポットビームが当たっているが、太平洋側は本土に当てられているだけで、そのおこぼれがどのあたりまで到達しているかは今一つ不明である。
そのようなわけで、実際の使いごこちを調べるために、実際にR190を持って船に乗ってみた。
日本から離れること10時間弱、八丈島手前の公海に出たとおぼしき地点で乗務員に「ここらへんは公海ですかね」と確認してみた。
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