MNPに「ユーザーニーズ」はあったか?番号ポータビリティ、議論の帰結先:(前編)

» 2004年03月31日 19時56分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 携帯電話の事業者を変更しても、番号を変更する必要がないシステム「番号ポータビリティ」(MNP:Mobile Number Portability)導入をめぐる議論が、大詰めを迎えている。総務省の研究会である「携帯電話の番号ポータビリティの在り方に関する研究会」は3月30日、第6回会合を開き、早ければ2006年夏にもMNPを導入することで話をまとめた(3月30日の記事参照)。同時に、4月1日にも一般公開する予定の報告書案を作成、傍聴者向けに配布している。

 MNPをめぐっては当初、導入にさほど積極的でない携帯キャリアもあったことから(2003年11月の記事参照)、多くの議論が交わされた。こうした経緯の中で、報告書案が最終的にどのようなかたちで導入の理由付けを行ったのか、改めて確認していこう。

ユーザーニーズはあったか?

 報告書案でまず言及されているのは、MNPのユーザーニーズがどの程度あるかという点だ。

 2003年の夏頃に携帯キャリアが行ったアンケート調査では、MNPサービスが提供された場合、携帯事業者の変更を検討するかとの問いに「変更を考える」と回答したユーザーが全体の14.6%を占めた。これを多いと見るか、少ないと見るかは判断の分かれるところで、実際ボーダフォンを除く携帯キャリアは導入の意義を疑問視している。

 ただ、同じ調査で「変更を考えるかもしれない」も22.4%いた。「どちらともいえない」の19.8%まで加えると、「最大約57%まで利用意向があると考えることもできる」(報告書案より抜粋)。

 2002年度に総務省が実施したアンケート調査でも、番号ポータビリティへのニーズが見てとれる。“今までに契約している事業者を変更した経験がなく、かつ変更したいと思ったが変更しなかったユーザー”に対して、変更しなかった理由を聞いたところ、「電話番号が変わるから」という理由が63.5%と最多だった。

 「(MNPを)有料でも利用したいか」と質問した場合、ユーザーの反応は微妙だ。上記の携帯キャリアの調査では、「是非利用したい」「なるべく利用したい」を合わせたユーザー数は、9.9%に留まった。「どちらともいえない」を合わせても、全体の30%未満となっている。もっとも、総務省が2003年に実施した調査では、ユーザーが利用に前向きな結果となり、「手数料を負担しても、同じ番号を使いたい」が31.9%。「費用に左右されるため、どちらともいえない」が43.1%となっている。

 報告書案ではこれらの結果を受けて、携帯事業者の調査では約10〜30%の利用ニーズがあり、総務省調査では約32〜75%のニーズがある──と総括。「携帯電話利用者の30%前後(約2400万人加入に相当)の利用意向があるといえるのではないか」(報告書案より抜粋)とまとめている。

便益>費用負担?

 もっとも、上記の調査でも分かるように番号ポータビリティの必要性を感じていないユーザー、あるいは有料なら利用したくないユーザーも、確実に存在する。番号ポータビリティ導入には一定の費用がかかるため、ユーザーが享受する便益がこれを上回るかどうかが、議論の焦点となった(2003年12月の記事参照)。

 この議論を動かしたのが、早稲田大学の国際情報通信研究科、三友仁志教授が発表した、日本での“MNP便益”の試算。三友教授はMNP導入に伴ってユーザーにどの程度の便益がもたらされるかを、一定の仮説をおいて数量化した。こうした経済的評価は、英国でもMNP導入にあたって行われたものだ。

 三友教授の試算によれば、MNP利用者が直接享受できる利益、およびMNP利用者が間接的に享受できる利益などを総合すると、導入で見込まれる“総便益”は4728〜6401億円になる(内訳については、(1月22日の記事参照)。一方で、番号ポータビリティ導入の費用は、928〜1411億円。つまり、便益がコストを上回ることになる。

 携帯電話利用者の3割が利用意向を示し、導入による便益もコストを上回る。欧州、米国など海外でも多くの国がMNPを導入しているという事情もあり、報告書案では「我が国においても利用者の利便性の向上、携帯電話事業者間の競争の促進が期待されることから、携帯電話の番号ポータビリティを導入することが適当である」(報告書案より抜粋)との結論に至っている。

 MNPを考える際、忘れてはならないのが新規参入事業者の存在。新規の事業者も、当然ながらMNPに対応できる体制を整えてもらう必要がある。

 報告書案には、「新規に市場参入する携帯電話事業者が現れた場合にも、利用者の利便を確保するため、参入当初から番号ポータビリティの機能を具備することが適当」と明記されている。

 もっとも、この条文は決して法的な拘束力を持つわけではない。極論すれば、MNPに対応するコスト発生を嫌い、業界のルールを破る事業者が現れるおそれもある。

 3月30日の会合では、NTTドコモ取締役経営企画部長の辻村清行氏がこの点を懸念。「海外では事業者に、MNPに対応するよう法的拘束力を持たせている場合もある。報告書案でも、この点をより強調すべきだ」と主張していた。

 今後は、各携帯キャリアがMNP実現方式の詳細仕様を固めた上で、システムの設計、プログラム作成に携わることになる。これらの設備投資は、「適正な手段によりその回収が行われることが必要である」(報告書案より抜粋)。

 それでは、ユーザー側の負担はどうなるのだろうか。報告書案を読むと、MNPを導入すれば直接の利用者以外にも“広くすべての利用者の便益が確保される”との視点から、利用者以外にも間接的に負担を求めることが適当──との記述がある。

 もちろん、MNPの直接の利用者は“変更手数料”などのかたちで、実費相当分を負担することになる。ただしそれ以外のユーザーも、広く薄く導入コストを負担することになりそうだ。

 具体的な費用などは、現時点では各キャリアとも未定。研究会では、各事業者が談合によって統一的な値付けをすることは、独占禁止法に違反することが確認された。すなわち、キャリアによっては競争的な価格帯の変更手数料が設定される可能性もある。なお、「各事業者が独自に判断した結果、同一料金に落ち着くことはあるかもしれない」(総務省)とのことだった。


 MNPは上記のような議論を踏まえ、早ければ2006年にも導入される見通しだ。しかし、実はまだ積み残している議論も多い。明日掲載を予定している「ナンバーポータビリティ、議論の帰結先」後編では、そのあたりに焦点を当てる。

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