米通商代表(USTR:United States Trade Representative)がこのほどまとめた2004年の年次報告書で、日本のTD-CDMAをめぐる行政の閉鎖性が指摘されている。背景には、2010〜2025MHz帯という新しい帯域がどう割り当てられるのか注目が高まっていること、その割り当てが日本国内の企業だけで独占されては困る米国側の思惑がある。
この問題と絡めて、TD-CDMAの現状と課題をもう一度振り返ってみよう。
まずは、USTRのまとめたレポートを確認したい。米国が直面する世界各国の通信事情をまとめた資料だが、その中の日本の項目には「モバイルサービスの免許をめぐる規制政策は、満足できるものではない」との記述が見える。
それによると、総務省は2010〜2025MHz帯を新たにTD-CDMA向けの帯域として割り当てる見通し(下表参照)だが、「複数の米国企業がこの周波数帯を利用して新技術を試すべく、免許を申請したが、これを却下した」(USTR資料より)。
USTRは以前にもこの分野で日本政府の透明性を要求してきたが、今後も免許発行のプロセスを注視する必要がある、とコメントしている。
これに対し総務省は、「事実と異なる部分がある」と話す。
総務省担当者によれば、現時点でTD-CDMAの実験局免許を発行しているのはIPモバイルのみ(2003年7月の記事参照)。ほかに、ソフトバンクが予備免許を取得している段階だ(2003年12月の記事参照)。ちなみに、イー・アクセスも免許申請を行っているが現状ではまだ認められていない。
これまでに、どれだけの企業から申請があったかは「こちらとしては明らかにできない」と総務省。ただし、USTRが指摘したように「海外の事業者から申請があり、これを拒否したということはない」という。
総務省としては、電波法第2章の第5条にある「欠格事由」に該当しない限りは、審査を行ない免許を与える。欠格事由の項目を見ると「外国の法人又は団体」という条項が目につくが、その下には“実験無線局”にはこの規定を適用しないとあり、審査される以前に排除されることはない。
かみ合わないUSTRと総務省の主張だが、米国企業を排除するなと主張するUSTR側の意図は十分理解できる。そもそもTD-CDMAのモバイルブロードバンドサービスを考えた場合、特定の企業がいち早く免許を取得して多くの周波数帯を押さえてしまえば、そこが一種の“独占事業者”となり得るからだ。
「周波数帯さえとってしまえば、話は終わり。それで各企業とも、やっきになっている」(TD-CDMA技術に詳しい、慶應義塾大学の中川正雄教授)
もちろん、TD-CDMAに潤沢な周波数帯が割り当てられ、多くの事業者が参入できる状況なら、こうした問題も起こらない。ただし、残念ながらTD-CDMAをめぐっては、当初から「周波数帯が足りない」と指摘されていた。
仮に、用意された15MHz帯の帯域をIPモバイル、ソフトバンク、イーアクセスの3事業者で均等に分割すると、1社あたりの帯域幅は5MHz。開始当初はともかく、将来的な全国展開を想定すると「(この帯域幅では)絶対にできない」(イーアクセスの千本倖生CEO)とされている(2004年2月の記事参照)。このため、限られた帯域を各事業者が奪い合おうとして、状況が緊張しているわけだ。
前出の中川教授は、「多くの事業者が狭い帯域でサービス提供するより、1社が独占してしまった方が多くの人間が幸せになれるのだが……」と笑う。実際、各社のインフラを共通化してはどうかとの提案も挙がっている(3月19日の記事参照)。ただし、ライバル事業者同士がインフラ基盤を共有するというのは、いかにも実現困難な話だ。
イー・アクセスの千本CEOは、やはり将来的にはTD-CDMA向けの帯域を拡張してほしいとも話す。USTRならずとも、今後は「免許発行のプロセスを注視する必要がある」だろう。
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