容姿端麗な若い俳優を起用することで「イケメンライダー」なる言葉を生み出し、子供以上に世の中のお母さんたちをとりこにした平成ライダーシリーズ。
いわずと知れた「仮面ライダー」であるが、昭和46年にスタートした当時のような、悪の秘密結社と戦う改造人間の話ではない。現在は仮面ライダーであることを“職業”とする「仮面ライダーブレイド(剣)」が好評放映中だ。
一連の平成ライダーの中にあって、2004年1月に放映を終了した前作品が「仮面ライダーファイズ(555)」。その劇中に登場するグッズが実にモバイル的であった。
変身するためのキーアイテムが携帯電話で、パンチに使うアイテムがデジタルカメラ。そのほかにも、ボイスレコーダーやビデオカムコーダーなど、実際にありそうなデジタル家電が目白押しなのである。
劇中の設定上、これらの製品を作っているのは「スマートブレイン(SMART BRAIN)」という会社。自然食品から最先端医療まで扱う、世界一の大企業グループだ。人間にとっての巨大な敵となるスマートブレイン社に対して、主人公たちが同社の製品で立ち向かうのにはもちろん複雑な背景があるのだが、ストーリーを抜きにしてもこれらの製品は私たちを楽しませてくれる。
ファイズのグッズ(ファイズギアという)は、変身ベルト「ファイズドライバー」とともに子供用玩具としてバンダイから発売されている。放映終了とともに店頭からはほとんど姿を消してしまったが、オークションサイトでは今でも相当数の取引が行われている。人気のほどが分かるというものだ。
バンダイのファイズドライバーはそもそも子供向けに作られた玩具なので、大人が遊ぶにはベルトの長さが足りない。いや、“遊ぶ”というのが正しいのかはともかく、コレクションとして手元に置いておきたいという需要もあるのだろう。劇中に登場したケースと同じものを用意してそこにグッズを詰め込んだり、アイコンシールやユーザーズガイドを自作する人も現れている。
そんな中、バンダイから「仮面ライダー555 Complete Selection ファイズギア」が発売された。販売価格が3万1500円という、玩具というにはあまりに高額な本格商品である。
このファイズギアの特徴は、繊細なディテールの再現と、大人が着用できるサイズであること。ちなみに子供用で同じ製品をそろえると、定価でおよそ1万1000円となり、価格差から見ても単に“ベルトのサイズを長くしただけ”ではないことが分かる。
キャッチコピーは「これで君も“仮面ライダー555”になれる。こだわりの仕様のファイズギアが大人向けで登場だ!」に加え、「玩具版『変身ベルトDXファイズドライバー』とは明らかに異なる各細部への追求度を体感せよ!」という過激なもの。しかも一般の店頭売りがなく、完全受注生産と聞いては、ぜひとも手にしたくなるのも無理なからぬところだろう。筆者は決してマニアではないが、一ファンとして入手することを決意した。
手元に商品が届いたのがゴールデンウィークの真っ只中。期待と不安の入り混じる中、おそるおそるふたを開けて中身を取り出してみるが……どうにもいい商品を手にしたときの実感が沸いてこない。
確かに大人が着用できるサイズだし、ダイキャスト製の重量感もある。3万円で同じものを作ってみろといわれたら、筆者にはとても無理だろう。受注生産品を入手した満足感もないわけではない。だがそれと同時になんともいえぬやりきれなさが包み込む。「バンダイさん、ちょっと手を抜いてませんか?」
職業柄、多くの携帯電話を手にしてきた筆者は、やはり多くのモックアップも手にしてきた。言い方は悪いが、モックアップも一種のおもちゃである。だが、モックアップ自身の出来栄えについて残念に感じたことはない。ほとんどのケースで、本物の質感を見事に再現できているからだ。今ではカメラ機能を試したり、メニューを確認できるモックアップまで登場している。
しょせんおもちゃごときを、本物の携帯電話と比べるなという意見はあるだろう。だが、子供用の玩具を越えたはずの本商品が、それ以下のクオリティで提供されたとしたら話は別だ。筆者の手元には、同時にオークションで入手した子供用のファイズギア一式がある。サイズがやや小ぶりである以外に、ファイズフォン(携帯電話)の機能面で大きな違いはない。
子供用のファイズフォンはキレイに二つ折りとなるが、大人用のファイズフォンはたたんだときに左右にズレが生じている。わずか1〜2ミリほどのズレではあるが、携帯電話のモックアップではあり得ない話だろう。
ここまで辛口で展開してきたのには理由がある。まずひとつは、以前の取材(2002年10月18日の記事参照)でバンダイ自身が本物へのこだわりを口にしているのにもかかわらず、この商品に生かされていないということ。
そしてもうひとつの理由が、この番組の協力者としてボーダフォンが正式に参加していながら、こうした市場に無関心であることだ。
別に本物の携帯電話を作ってくれというのではない。プロの目から今回の商品を見たら、改良すべき点はたくさん出てくるのではないだろうか。このところジリ貧傾向にあるようにも見えるボーダフォンにとって、企業イメージを高めるひとつのチャンスでもあったはずだ。
現在放映中の仮面ライダーブレイドにも、引き続きボーダフォンが参加している。変身グッズに携帯電話が使われているわけではないので、出演者が劇中で使う電話機を提供しているようだ。もしかしたら、「主人公と同じ機種が欲しい」と売上に貢献するかもしれない。だがそんなことはどのキャリアでもドラマと連携して既にやっていることだ。仮面ライダーに協力していることの利点を全く生かしていないのが残念なのである。
大人用ファイズギアのクオリティに失望した人が多いのか、オークションへの出品が増えているようだ。その一方で、大人用ファイズギアケースの出品にも人気が集まっている。3万円以上で取引されるこのケースは、通常7000円ほどで手に入るガンケースに、オリジナルの内装材を詰め込み、劇中と同じ仕様に仕立てたもの。子供用ファイズギアでも同様の試みが見られたがこれほど高値にはならず、いかに大人用ファイズギアを持て余している人が多いかが分かろうというもの。
そういう筆者もとりあえずオリジナルのガンケースを入手し、機会があればこれを完成させたいともくろんでいる。当面の問題は内装のウレタンをどうするかだが、ただいま製作経験者から情報を入手中だ。機会があればどちらかでぜひお目にかけたい。
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