作品名 | リアリズムの宿 |
監督 | 山下敦弘 |
制作年・製作国 | 2003年日本作品 |
つげ義春の漫画(「リアリズムの宿」「会津の釣り宿」)の設定を現代に移し、くるりの叙情的な音楽で味わい深く仕上がった作品。原作には存在しなかった携帯電話が、登場人物たちの心情を語るのに役立ちます。
寒空の下、さびれた駅の改札で立ち尽くす二人の男。インディーズ映画監督・木下と脚本家・坪井は、顔見知りではあるものの、友人と呼べるほどの仲ではありませんでした。共通の知人である船木に誘われ、三人で旅に出るはずが、船木が来ないまま気まずい時間が過ぎていたのです。その静寂を破るように、携帯電話のベルが鳴り響きます。
「もしもし」
電話に出たのは、坪井。
「船木、今、どこ?」
電話をかけてきたのは案の定、船木でした。
「え、まじで、二度寝?」
船木は寝坊してしまったようです。
「五度寝じゃねぇよ、全然笑えないよ」
坪井は真剣に怒っています。
「いや、だから、直接喋ったことないから」
坪井は自分の隣にいる男、木下とは船木を通じて知り合ったのです。
「早く、こっち向かってよ」
ばつの悪さを和らげてもらうためにも、一刻も早い船木の到着を願う坪井。
「木下さん、船木」
坪井は自分の携帯電話を差し出します。
「まだ家を出てないの?」
木下も船木の不在に苛立っている様子。
「で、俺、どうすりゃいいの」
木下もまた、坪井とどう接したらよいものか困っているのです。
「怒ってないよ、怒ってないけど……来てよ、早く」
船木が来るまでにはまだ時間がかかることを知り、電話を切った木下。坪井と二人で旅をスタートさせることにしました。
「とりあえず、俺、旅館の場所知ってるから」
こうしてポツリポツリと言葉を交わしながら、木下が前に来たことのある宿を目指していくと……なんと、その宿は潰れていたのです。予約をしていなかった不手際にまた気まずい空気が漂います。
しかたなく、別の旅館を探す二人。北風が吹き荒ぶ中、街をさまよってやっと見つけたのは、気さくな女将とインド人の主人が切り盛りする宿。奇妙な体験の連続に、坪井と木下は少しずつ心を通わせていくことに。いまだに船木は合流せず、携帯電話にも出なくなっていましたが、二人は旅を続けていきます。
やがて海辺にたどり着き、砂浜で二人並んで激しい波音を聞いていると、そこに突然女の子が現れました。それも真冬に裸同然の格好で。動揺する木下と坪井。凍えている女の子を放っておけずに事情を尋ねると、泳いでいるうちに服と荷物を海にさらわれてしまったというのです。
ワケアリの女、敦子に洋服を買い与え、三人で行動することになったのでした。思いがけない女の登場で、男二人の味気ない旅も色付いていくのでしょうか。誰かと一緒に歩き出すことで新しい景色が見えてくる、観終わったあと、誰かと旅に出たくなるような作品です。
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