PC向けでは、ハイエンド3Dグラフィックスチップといえは高性能の証だ。しかし携帯電話の世界では、これまで3Dグラフィックスチップは日陰の存在だった。
PC向け3Dグラフィックスチップ大手のNVIDIAは、MediaQ買収を機にモバイル市場に参入。今年は携帯電話にフォーカスした「GoForce 3Dコア」(AR10)を開発し、PC並の“3D体験”を携帯電話にも持ち込もうとしている。
マニッシュ・シング氏。PDAなどのグラフィックスチップ、アプリケーションプロセッサで大きなシェアを持っていたMediaQの出身。「GoForce 3000/4000」はMediaQの「MQ9000」がベース。基本のアーキテクチャは同じで、ARMコアを取り除いてあるという |
このGoForce 3Dコアは「(携帯向け)初のプログラマブルシェーダベースの3Dコアだ」と、NVIDIAでハンドヘルド向けのプロセッサを担当するマニッシュ・シングシニアディレクター。
複雑な視覚効果を簡単かつ自由に利用できるプログラマブルシェーダー(ピクセルシェーダー)は、PCの世界でも「GeForce2」で初めて登場した技術だ(2月12日の記事参照)。GoForce 3Dコアでは「フォグもシェーダの中で処理」(シング氏)している。
さらに浮動小数点演算に対応したジオメトリプロセッサを内蔵。3Dグラフィックスの座標演算には浮動小数点処理を行えることが望ましいが、携帯電話のCPUとして主に使われるARMプロセッサは現在、浮動小数点演算機能を実装していない。そのためエイチアイが提供するソフトウェアベースの3Dグラフィックスエンジンは、整数演算のみで処理できることを特徴としている。
高度な3D機能を実装しながら、同社が「nPower」と呼ぶ消費電力削減機能により、低消費電力化も実現。PC向けコアの場合、毎秒100Mピクセルの処理に750ミリワットが必要だが、GoForce 3Dコアでは35ミリワットで毎秒72Mピクセルの処理が可能だという。「15分の1の消費電力で、同じパフォーマンスだ」(シング氏)。
NVIDIAはこのGoForce 3Dコアを、自社の携帯向けグラフィックスチップとして提供するほか、半導体IP(Intellectual Property)として他社にもライセンスする計画だ。タイミングは「1年後くらい」(シング氏)を予定している。
「6カ月間、日本の端末メーカーの要求にかなり合わせてきていて、いい形になってきている。具体的なメーカーとの商談も進んでいる」(シング氏)
ハイエンド端末では、開発効率アップのため、2つ目のCPUとしてOMAPやSH-Mobileなどのアプリケーションプロセッサを搭載する端末が増えている。さらに、グラフィックス性能が急速に求められてきたことから、専用のグラフィックスチップを搭載する例も出始めている。
「グラフィックスチップは、アプリケーションプロセッサよりも早い進化を求められる。専用のグラフィックスチップが消えることはない」とシング氏。PC向けのグラフィックスチップは、今やCPUを凌ぐ回路規模になっていることを考えると、携帯向けでもグラフィックスチップ搭載が当たり前になる可能性もある。
GoForce 3Dが対応する3DのAPIは、OpenGL ES 1.0/1.1、Direct3D Mobile、JavaのJSR184。いずれも次世代の標準となり得る3D APIだ。
これまでソフトウェアベースの3Dエンジンである、エイチアイのMascot Capsuleが国内ではデファクトスタンダードとなっていたが、OpenGL ESなど組み込み向けのAPIが整備されるとともに、次第にAPIも標準化されようとしている。
PCの世界で急速に進化した3Dグラフィックス。同じ進化と普及のサイクルが携帯でも実現するのかどうか。圧倒的な3Dパワーを携帯に持ち込もうとしているNVIDIAの試みが試金石となるだろう。
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