WPC EXPO 2004の3日目となる22日、ドコモの常務取締役、プロダクト&サービス本部長 榎啓一氏が基調講演を行った。タイトルは「モバイルコミュニケーションの進化によるライフスタイルの変化」。iモードと、iモードにかかわるビジネスについて話した。
「たとえば普通のテレビより大画面テレビ、ハイビジョンテレビがいいとされるように、『コンテンツはきれいでリッチなほうがいい』と考えるのは世の中の常識。だが、携帯サービスは逆」だと榎氏はいう。
理由は、携帯ビジネスといえど、主役はそれを使う「人」だから。携帯電話の場合、表示は高画質でなくてもかまわない、それよりもいつでも人のそばにあることが大事なのだ、と説明。携帯電話は24時間そばにある存在。たしかに「身近にある」ということでは最強だ。
iモードが誕生した1999年には、付加機能はメール+αくらいしかなかった。しかしその後カラー液晶モデルが登場し、iアプリが始まり、カメラ付きモデルが普及し……と、iモードはどんどん成長してきた。その中で一貫して変わらないのは、「主役はあくまで人である」ということ。携帯電話は、いつでも人のそばにある個人生活のコントローラ。だからこそビジネスチャンスが大きい、と呼びかける。
「iモードのコンテンツは決してリッチではなく、むしろ“ニッチ”。しかしいつでも人とともにあるからこそ、iモードビジネスは成功した。いわば“ニッチの集大成”だ」とした。
こうした方針の中で、ドコモの戦略で重要な位置を占めるのが、QRコードや赤外線、非接触ICなどの近距離通信技術を生かしたサービスだ。
QRコードは、“総覧性、一覧性に優れるプリントメディア”と“即時性、詳細性に優れるインターネット”が融合した、初の例だと紹介。去年はまだトライアルという感じだったが、2004年は本格普及したと見ており、観光ポスターや観光ガイドブックなどを例に、今後はさらに普及が進むだろうと述べた。
赤外線ビジネスの例としては、日本コカ・コーラなどと組んで展開している、自動販売機とiモードを組み合わせたサービス「Cmode」を挙げた。Cmode自動販売機では、通常のコカ・コーラの自動販売機に比べ、客単価が上がるという。会員登録が必要で、ポイント制をとっているCmodeの場合、「自動販売機に対してロイヤリティが発生するから」と理由づけた。
榎氏は、ビジネスでやってしまいがちなこととして「特定のデバイスを作り、それをユーザーに“持ってもらう”“使ってもらう”」という「他動詞的な考え」を指摘した。iモードビジネスが成功したのは、ユーザーが「“自らの意志で持っている”モノを使ってもらっているから」と述べ、“自分の意志”という自動詞的な考え方が重要だと説明した。
また、海外でのiモード展開についても軽く触れた後、「ビル・ゲイツにiモードは作れたか」という仮題を示し、答えはノー、とした。
理由は「ビル・ゲイツは天才だし、自分を取り巻くビジネスのことはよく分かっているが、周りに女子高生はいないから」。高度に消費文化が発達し、規模が大きい、東京というたぐいまれな街に居て、普通の人の普通の消費行動を身の回りに見ているからこそ、iモードは生まれたのだとした。
携帯電話ビジネスは、まだまだ海外市場に可能性が残っている。貧富の差が激しいところでは難しいが、たとえば中国で富裕層が延びてきて中産階級人口が増えれば、東京を先行モデルとして同じようなビジネスを展開できるはず、と呼びかけた。
現在、日本では成人人口のほとんどに当たる8000万人が携帯電話を利用しており、iモード端末の契約者数は約4200万人。ドコモの売り上げは5兆円程度で、このうち、iモードに関連する売り上げが1兆円あるという。
現在サードパーティのビジネスの規模を見ると、有料コンテンツ市場が1000億円。このうち半分程度が着メロや着うたで、10%くらいがゲーム、残りは壁紙ダウンロードやニュース記事などだという。ほかにも物販(携帯電話を利用した通販)、イベント入場券や航空券などのチケット販売などのビジネスも好調。そして非常に大きなマーケットなのが株の売買だという。
iモードのおかげで新しく立ち上がった市場は、たしかに少なくない。たとえば、クレジットカードを持てない未成年にも通信販売を利用できる手段として、「iモードで注文+代引きで支払い」というルートが新しく確立された。
また、個人の株の売買は、非常に大きなマーケットに成長し、取引額にして数十兆円の規模がある。平日の昼間は証券会社に行かれず、会社のPCで大っぴらに画面を開くわけにもいかない会社員でも、携帯の小さな画面ならほかの人に見られる心配をせずに、株の売買ができる。まさに携帯電話の普及あってこその市場といえる。
“ニッチ”を集めて成長してきたiモードビジネス。次に成功するのはどこだろうか?
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