韓国全土に衝撃。携帯電話カンニング事件を追う韓国携帯事情

» 2004年12月13日 16時31分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

韓国社会に衝撃を与えている、携帯電話カンニング事件。地方都市で発覚した事件は次第に波紋を広げ、現在では首都ソウルの一流大学も巻き込むまでに発展している。事件の背景や今後について探った。

事件発覚。その緻密な手口とは

 ソウルから車で南へ5時間ほどの都市、光州。去る17日に実施された大学修学能力試験(日本で言う大学入試センター試験、以下、修能)において、携帯電話によるカンニングが11月20日に発覚した。光州だけで約180人余りが摘発されたこの事件は、その後全国に広まり、ソウルやほかの都市でも多くの学生の関与が確認された。この事件が韓国中に大きな衝撃を与えている。

 手口が緻密で組織だっていたということも、この事件が衝撃的な理由の1つだ。首謀者のほかに「選手」と呼ばれる成績優秀者、お金を出して解答を教えてもらう不正受験者、学校の外で選手と不正受験者を中継する「アシスタント」がおり、選手が試験会場から送った正解を、アシスタントが整理して不正受験者たちへ送るという仕組みになっていた。

 携帯電話は素早く操作でき、かつ隠しやすい小型のストレートタイプが主に利用された。事件に加わった学生たちは、カンニングのため2、3カ月も前から準備や練習を続けてきたという。

 警察は、修能の日にやり取りされた携帯キャリア3社のSMS(ショートメール)2万件余りを調査し、関与者がどれほどいるのか、全容の解明を急いでいる。12月14日には成績が発表されるが、不正者については、試験を無効にしたり成績表を廃棄処分するなどの措置が取られる予定だ。

携帯電話カンニングの際、多く使われた「NS1000」。個性的な端末が多いLG Telecomから、シンプル端末としてリリースされたもの。そのシンプルさゆえ、今回の事件で使われることとなってしまった

事件の背景

 韓国の大学入試は、修能が大きなウエイトを占める。二次試験がない大学もあるほどで、あるとしても面接や論述など。まず修能の成績ありきで、その成績が拮抗した場合に、二次試験や内申書で合否を分けるという形が、大方の傾向だ。

 日本以上の学歴社会である韓国の高校生にとって、大学入試は一生を左右するほどの意味を持つ。韓国社会における位置づけも大きく、試験当日は渋滞で受験生が遅刻しないようにと、企業や官公庁は出勤を1時間遅らせるほか、遅刻しそうな学生をパトカーが送り届ける光景も見られる。試験会場には先輩を応援する後輩たちが早朝から詰め掛け、声を張り上げて応援する。

 名の通った大学、ひいては企業に入るため、幼い頃から多くの塾をはしごしたり、内申書のためにボランティア活動を行うなど、ストレスの多い生活を強いられる学生たち。不景気の今、受験戦争も熾烈の一途をたどるばかりだ。今回、不正を行った学生達がここまでしたのは、それだけ重圧が大きかったことへの反動かもしれない。

 また試験官の甘さも指摘されている。試験会場では「携帯電話を所持しているだけで不正行為」との規則があるにも関わらず、休み時間などに通話している学生を見ても注意を与えなかったという。「内申を水増しし、試験問題を予め教え、カンニングをしても見て見ぬふりをし、大勢を“1等”にし、全員に“秀(5段階評価の最高)”を与える教育の脱線が、結局事をここまで転落させてしまったのだ」(朝鮮日報12月4日記事)とあるように、教育の根本からの見直しが今、必要とされている。

保存か削除か。SMSの行方

 この事件を受けて携帯3キャリアは、これまでサーバに保存していたSMSを、来年1月からは一切保存しない方針を表明した。今回の不正で、警察がSMSの内容を調査していることが知れ、プライバシー侵害の議論が噴出してしまったためである。

 これまではKTFがSMS全文を30日間、SK TelecomがSMSの一部(6バイト、ハングル3文字、英数字6文字)を1週間、LG TelecomがSMSセンターに48時間保存の後バックアップセンターに移し、ストレージ容量によって5〜7日間保存していたという。

 これに対し12月3日、韓国最大の野党、ハンナラ党修能不正対策特別委員会のウォン会長は、「それならば来年からは修能の日にやり取りされたすべてのメッセージの保存を義務化するなど、対策を用意しなければ」と述べると、これを受けたのか翌々日、携帯キャリア3社の意見は一転。「6バイト、ハングル3文字、英数字6字のデータを1週間保存する」(KTF)と発表した。SK Telecomはいまだ明確な結論を出せずにおり、LG Telecomも、検討中ではあるもののKTFと歩調をそろえる方向だ。

 今回の不正に加担し拘束中のメンバーの中には、昨年も同様の手口を使った者も見つかったことから、カンニングが代々続いてきた可能性が高まった。さらに1科目25万ウォン(約2万5000円)という、学生には決して安くない金額が動いていることから、父母やブローカーの関与も疑われている。

 さらに、替え玉受験やPCから複数へ一度に解答を送信する「ウェブ・トゥ・フォン」方式カンニングまで発覚するなど、拡大する一方のこの事件に、警察も教育関係者も頭を抱えている。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。

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