引きこもり支援のために、携帯ができること

» 2005年02月25日 16時49分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 自宅の一室にこもりきりで、時には家族とさえ満足なコミュニケーションがとれない。そんな「引きこもり」の増加が社会問題化している。解決策の1つとして、携帯メールを使ってはどうかという提案がある。

 NPOの教育ルネッサンスは、日本コムシスの協力を得て引きこもりを支援するサイト「ラポール・サポートセンター」を開設した。特徴の1つは、引きこもりの人間とカウンセラーが携帯メールでやり取りするシステムを採用したことだ(2月1日の記事参照)。その狙いはどこにあるのか、教育ルネッサンス理事長の田邉弘美氏に聞いた。

Photo 左から、教育ルネッサンス理事長の田邉氏、日本コムシスの青木和男氏

携帯メールのカウンセリングは「画期的」

 ラポール・サポートセンターは、11人のスタッフからなる小所帯だ。臨床心理士や、民間資格であるICI(国際カウンセリング研究所)の心理カウンセラーなど、プロとして対応できる「カウンセラー」と、教職を退職した人間や引きこもりから立ち直ったボランティアなどが参加する「サポート士」から構成される。

 同センターのサービスはシンプルだ。引きこもり状態にある相談者は、教育ルネッサンスから教えられたアドレスに、携帯からメール送信する。1人の相談者に対して1人のカウンセラー、2人のサポート士と計3人がつくため、メールはいずれかのアドレスに宛てて送信される。

 メールは、まず教育ルネッサンスのサーバに届けられる。その後宛先ごとに、カウンセラーやサポート士の携帯に転送される。カウンセラーは外出先でも、内容をチェックして返信できる仕組み。その内容は、教育ルネッサンスのサーバに蓄積される。

 上記のシステムは、日本コムシスの業務マネジメントシステム「ワンサイドシステム」をベースに作り上げられた。日本コムシスのIT推進本部商品企画部門、青木和男氏は「社会的意義を考えて、今回のシステムは無償で提供した」と話す。

 実際に利用してみての感想を、田邉氏は「画期的」と話す。

 「引きこもりの人間は、相談機関に抵抗を感じることが多いといわれているが、携帯メールなら敷居も低い。カウンセラーに携帯を渡せばいいだけだから、少人数の体制でも運営が簡単」

 メールでカウンセリングを行う組織には、部屋に固定のPCを据え付け、その端末でのみ専門家が返信メールを書くようなところもあると田邉氏。携帯メールなら、そうした方式と比べコストも低く抑えられるという。

 「PCメールの本格的なやり取りは、1往復で料金が4000円とかになってしまう。ラポール・サポートセンターでは、サポート士とのちょっとした相談は、いくらでも無料と設定している」

されど、「万能」ではない

 田邉氏は、このシステムが画期的と評する一方で、万能ではないとも認める。実際、相談者から問い合わせがあっても「自殺願望がある」などの引きこもりに対しては、医療機関で対応してもらうようにしているという。

 「酒におぼれて、なまけ癖がついてしまっている人間もいる。状況的にこちらから訪問してカウンセリングをしなくれはいけないが、そんな場合はこちらの体制として人数的に無理だ」

 世の中に対して“斜に構えている”場合も対応が難しい。しかし、中にはカウンセリングを真に必要としている人間もいるのだという。

 「何を相談していいか分からない。そんなレベルでもいい。何が悩みか気付かせてあげて、第一歩を踏み出せる、その『気付きの力』を広げさせてあげられれば」

行政も巻き込んだ対応が必要

 引きこもりは現在160万人に上るともいわれているが、実態はよくつかめていないと話す。

 「20代、30代、40代の引きこもりもいる。その40代を食わせているのは誰か? 年金をもらっている親だ」

 その親がいなくなったとき、引きこもりの人間はどうなるのかと田邉氏は懸念する。「もともと彼らには社会性がない。所属する集団もなければ、所属する意思もない。路上に出て犯罪者になるのか? 餓死してしまうのか?」

 田邉氏は、行政の対応窓口も設けられるべきだと話す。その上で、ほかの組織とも協力しながら、この社会問題に取り組みたいという。

 「携帯メールによるカウンセリングという手法も、学術的に体系化する必要がある。ほかのNPOと共通認識を持てるよう、問題を投げかけていきたい」


PCメールを不登校児とのコミュニケーションに活用

 なぜ、引きこもりの人間を支援するのに、携帯メールを利用しようと考えたのか。田邉氏は、そもそも背景として“PCメール”が不登校児童とのコミュニケーションに活用されている状況があると話す。

 教育ルネッサンスは、これまで不登校児童の問題に取り組んできた。学校に溶け込めない児童は、しばしば市町村の指定した「適応指導教室」で学習に取り組む。これは一種の“公的なフリースクール”だが、そこでの出席状況は在籍校(子供の原籍校)への出席日数としてカウントされる。

 だが、この種の適応指導教室にも参加できない児童がいる。そうした子供は、NPOなどの運営するいわゆるフリースクールに通うことになるが、このとき出席日数はどうなるのか――という問題がある。

 「文部科学省は、なるべく(フリースクールへの出席を在籍校の)出席日数として認定する方向にせよと通達を出している。そういう流れの中で、例えばPCメールで子供ときちんとコミュニケーションをとることで、認定しやすくしてやろうという動きがある」(田邉氏)

 不登校の児童は、社会との接点をなくしかけていることもある。そんな子供の心に、PCメールを使って寄り添う。メールなら、子供も文章で自分の考えをまとめてくれるという利点がある。

 「そういうカウンセリングがある中で、じゃあ若い人から年寄りまで利用できるインフラ端末は何かと考えたときに、携帯があった。このシステムを利用できないか……と」

 活用され始めたPCメールの延長線上に、携帯メールを使うというアイデアが、自然に浮かんだという。

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