「携帯とは、犬のおしっこである」と話す芸大教授

» 2005年04月27日 20時13分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 SH-Mobileラボは4月27日、2004年度活動報告を行った。ラボの研究員たちが、これから携帯がどう進化するのか各人のアイデアを示した。

 SH-Mobileラボとは、ルネサステクノロジが2004年4月に開設した研究会。消費者のニーズやライフスタイルの変化、将来のトレンドなどを探る研究プロジェクトで、京都造形芸術大学の竹村真一教授が座長を務めている。活動内容としては主に、各界のゲストメンバーを招いて調査やワークセッションを行っている。

Photo 京都造形芸術大学の竹村教授

「DNAという情報革命」の延長に……

 基調講演を行った竹村教授は、現在は人類史上第3の情報革命であると位置づける。

 「そもそも、40億年前に生命が誕生し、DNAを用いて情報を伝達するようになったことが1つの情報革命。そう言っていくとさまざまなものが情報革命になるかもしれないが……」

 竹村氏は歴史を振り返り、人類はこれまでに2つの情報革命を体験したと話す。

 「文字が生まれ、ギリシャ哲学などの思想を口頭ではなく文字で伝えるようになった。アリストテレスなどの思想がアレクサンドリア図書館に書物として保存されるようになったが、これが第1の情報革命」

 「グーテンベルグが印刷技術を発明した、これが第2の情報革命。これまで聖書は教会という“アーカイブセンター”に行かなければ読めなかったのだが、印刷によって各人が家庭で読めるようになった。この聖書の普及が、やがて宗教革命につながることになる」

 このように何千年、何百年単位でものごとを考えると話が大きく感じられるかもしれないが、現在のユビキタス情報革命もこれに匹敵する大きな変化なのだと竹村氏は説く。

 竹村氏は、一般に“ユビキタス社会”というとき、日本と米国では想定するものが少々異なるとも指摘する。

 米国の場合、ユビキタス社会とはLANのインフラを普及させ「サイバースペース」を多く用意することを指す。ユーザーは「現実とサイバーの世の中を区切り、現実を忘れてサイバースペースに没入する」ような社会だと竹村氏。

 しかし、日本では携帯の普及により状況が異なる。「コンサート会場で、携帯をかざして『ねぇ聞こえる?』と相手に聞いている人間がいる。ねぇ聞こえる、という文化で、現実とサイバーがシームレスに融合している」

 このように、現実空間全体が携帯を介して“情報のインタフェースになっている”のだという。

携帯=犬のおしっこである

 竹村氏は、自らが手がける「どこでも博物館」というプロジェクトから具体例を紹介しつつ、携帯がもたらした情報化社会について考察する。

 「例えば尾道で、道を歩いていると看板も何もないのに、ふくろう(のモニュメント)がいる。ここにはQRコードが付いており、それを携帯で読み取ると『90年前、志賀直哉がこの辺りでずいぶん道に迷い、その時の様子を暗夜行路で描写した』ということが分かる」

 この方法なら、歩行者は時間を超えて志賀直哉の経験を追体験できる。ほかに、この場所が平安時代はどうだったとか、太古の昔は海だったとか、戦時中は空襲の被害が大きかった……などと各地に情報を埋め込んでいけば「街が物語を語りだす」(同氏)。

 竹村氏は、犬が電柱などにマーキングをすることをひきあいに出し、こう話す。

 「犬がおしっこをかけて、後から来た犬がそのにおいをかいで『こんな犬がここを通ったんだな』と知る。おしっこにたとえては申し訳ないが、携帯による情報のトレーサビリティもこれに似ている」

 ユビキタス、という言葉は「遍在」(あまねく、どこにでも存在する)と訳される。竹村氏は、携帯電話がもたらすユビキタス社会では、コンピュータのチップが遍在化するのではなく、実は「経験」が偏在化するのだ―――と強調した。

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