もう1つの次世代無線技術――「iBurst」の未来

» 2005年06月03日 01時22分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 次世代の無線通信技術といえば、HSDPAWiMAXが話題に上ることが多い。しかし、もうひとつ忘れてはならない技術がある。京セラが推進する「iBurst」がそれだ。

 オーストラリアのベンチャー企業PBA(Personal Broadband Australia)が初めて商用化した技術で、京セラが基地局やクライアント端末の開発、提供を行っている。今年4月からは、南アフリカの通信事業者WBS(Wireless Business Solutions)が無線ブロードバンドサービスと位置づけた商用サービスを開始。この2国でサービス提供されている段階だ(3月31日の記事参照)。国内ではまだ商用化の予定はないが、京セラが実験局免許を取得して(2004年12月20日の記事参照)、横浜事業所にアンテナを設置している。

 6月2日には、その横浜でiBurstを普及させることを目的とするフォーラム「iBurstフォーラム」が開催された。会場では報道関係者向けにデモが行われ、京セラもフォーラムのコアメンバーとして技術を積極的にアピールした。

Photo 京セラの通信システム機器統括事業部、ワイヤレスブロードバンド事業部長の五十里誠氏

基地局側30Mbps、クライアント側1Mbpsを実現

 iBurstの技術上の特徴として、第一に挙げられるのは周波数利用効率の良さ。利用する周波数帯にもよるが、実験では2GHz帯で5MHz幅を利用し、基地局スループットで32.4Mbpsを実現している。内訳は、上り8.0Mbps、下り24.4Mbps。ユーザー単位では、1クライアントあたり最大1Mbpsのスループットを実現する。

 「5MHz幅で、30Mbpsを実現する。割り算すると(1Hz幅あたり)6bpsになる。3Gの技術ではせいぜい(1Hz幅あたりのスループットが)1bpsだ。周波数利用効率は、5倍から10倍こちらが優れている」(京セラ)

Photo 会場では、実際にクライアント端末(写真左奥)とPCをつないでの受信デモが行われた
Photo 「iBurstに接続しました 速度1.0Mbps」という表示が見える
Photo 実際のビットレートが表示されている。赤い線は1Mbpsで、継続して1Mbps近い数値が叩き出されているのが分かる

 条件にもよるが、1つの基地局によって見通しで半径12〜13キロをカバーできる。「高層ビルなどが立ち並ぶ都心部では、1キロを下回るぐらいだろうか」(京セラ)。基地局の敷設は少なくてすむため、事業者としてもコストがかからずにすむという。

 今後のさらなる高速化も予定されている。iBurstフォーラムのチェアマンであるジム・クーニー氏は、「12カ月以内に2Mbpsから4Mbpsに高速化する」と話す。VoIPをサポート可能な点もポイントで、2005年12月にはVoIPサービスが商用化される見込みだという。

 京セラによれば、現在VoIP技術は「フェーズ1」。この段階でも、レイヤ1(物理層)のパワーコントロールなどを最適化しているほか、レイヤ2(データリンク層)でセッション制御の最適化を行っている。さらに、ネットワーク機器側で米CiscoのQoS機能を実装しており、これによる音声品質改善を図っている。

 実際に、VoIPアプリケーションをPCで立ち上げての通話デモも行われていた。実験環境とはいえ、音質は確かにクリア。京セラは、時速100キロの車内での通話も可能なほか、この状態での高速ハンドオーバーも可能だとアピールしていた。

 会場ではまた、利用時の実環境に近づけるため“21台同時接続”した状況で通信していた。このスループットを測定したのが下のグラフで、21クライアントの数値を重ねてプロットしている。10秒ごとに各クライアントのスループットが落ち込んでいるが、これは一定周期で基地局をモニタリングするという動作のためだ。

Photo 1クライアントあたりの平均するープットは987Kbpsと、ほぼ理論上の最大値である1Mbps近いものとなった

日本でのサービス開始には「採用事業者」が必須

 iBurstフォーラムでは、同技術をオーストラリア、南アフリカ以外の国へも普及させると意気込む。既にフランス、英国、韓国、タイ、台湾、香港など各国の研修派遣団を受け入れているという。

 日本でもサービスが展開されるのかが気になるが、これについては解決しなければならない問題も多い。まず、総務省がiBurstにどの帯域を何MHz幅を割り当てる予定なのかが定まっていない。

 またそもそも、iBurstを採用して事業を展開してくれる通信事業者を探す必要がある。京セラは「基地局はすぐに提供できる」と強調するが、国内での商用化時期は全く未定といえる。

 とはいえ、京セラは横浜に各事業者を招いて、技術を批評してもらっているという。京セラの通信システム機器統括事業部、ワイヤレスブロードバンド事業部長の五十里誠は「2Mbpsの高速化した先には、将来的に10Mbps超の高速化も考えている。iBurstを(3Gのおきかえとして)ネーションワイドに展開するのでなく、3Gのシステムとハンドオーバーさせて(1部エリアを高速化させる)デュアルサービスにしてもいい」と話していた。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年04月26日 更新
  1. 楽天モバイルのスマホが乗っ取られる事案 同社が回線停止や楽天ID/パスワード変更などを呼びかけ (2024年04月23日)
  2. シャープ、5月8日にスマートフォンAQUOSの新製品を発表 (2024年04月24日)
  3. スマホを携帯キャリアで買うのは損? 本体のみをお得に買う方法を解説 (2024年04月24日)
  4. 貼り付ければOK、配線不要の小型ドライブレコーダー発売 スマート感知センサーで自動録画 (2024年04月25日)
  5. Vポイントの疑問に回答 Tポイントが使えなくなる? ID連携をしないとどうなる? (2024年04月23日)
  6. 中古スマホが突然使えなくなる事象を解消できる? 総務省が「ネットワーク利用制限」を原則禁止する方向で調整 (2024年04月25日)
  7. 通信品質で楽天モバイルの評価が急上昇 Opensignalのネットワーク体感調査で最多タイの1位 (2024年04月25日)
  8. ドコモ、「Xperia 10 V」を5万8850円に値下げ 「iPhone 15(128GB)」の4.4万円割引が復活 (2024年04月25日)
  9. 「iPhone 15」シリーズの価格まとめ【2024年4月最新版】 ソフトバンクのiPhone 15(128GB)が“実質12円”、一括は楽天モバイルが最安 (2024年04月05日)
  10. スマートグラス「Rokid Max 2」発表 補正レンズなくても視度調節可能 タッチ操作のリモコン「Rokid Station 2」も (2024年04月25日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年