イリジウム衛星電話で外洋からインターネットにアクセス勝手に連載!「海で使うIT」(5/5 ページ)

» 2005年08月15日 22時26分 公開
[長浜和也,ITmedia]
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イリジウムの日本正式復活と「船検」の関係

 ワールドワイドで見た場合、イリジウム衛星電話はすでに世界各地で復活していた。プレジャーボードユーザーにすれば「日本国内で使わなければ」イリジウムを利用できたわけで(厳密には、日本の法律が適用される日本船籍のプレジャーボートでイリジウム衛星電話を使うと違法になるのだが)、「まあ、いまごろ日本で正式に復活したといわれてもね」と感想を述べるユーザーもいるだろう。

 「日本で正式にイリジウム衛星電話が復活した」ことは、プレジャーボートユーザーにとっては船舶検査「船検」で大いに意味が出てくるのである。「ITmediaなのにこの記事にクリックした」ユーザーならば、船検について既知であると思うので詳しく説明しないが、例えば、横浜を母港にする限定沿海区域のヨットは東は外房の白浜港から西は西伊豆の波勝岬、南は御蔵島までが航行できる範囲となる。

 この関東海域限定沿海のヨットが「憧れの」小笠原諸島はもちろんのこと、けっこうメジャーな八丈島に行こうとした場合、必要となるのは「沿海区域」を通り越していきなり「近海区域」となってしまう。

 「関東のヨットなら“沿海区域”で八丈島に巡航できる」と誤解されているケースが多いが、日本小型船舶検査機構検査事務規定細則「小型船舶安全規則に関する細則」の329ページにあるように、沿海区域は御蔵島と八丈島の間で途切れている。そのため、その間の海域は近海区域を取得して航行することになる

 通常の船検で近海区域の条件を満たすためにはライフラフト、火薬類、エンジンの予備パーツなど、必要となる設備にかかるコストはかなりのものになる。そこで、よく使われるのが「特定の海域に回航するのに臨時で航行する」ために「臨時航行検査」で期間限定の「近海区域」資格を取得する方法だ。

 限定沿海のヨットが、臨時航行検査で近海区域を取得するために必要となる追加設備が先の「小型船舶安全規則に関する細則」371ページの表に記載されている。これによると、限定沿海を取得している「小型帆船」で必要になる主な追加設備は次のようになる。

  • 小型船舶用自己発煙信号×1
  • 信号紅炎×1
  • 発煙浮信号×1
  • 最大搭載人員を収容できる小型船舶用膨張式救命いかだ(ライフラフト)
  • 常に陸上との連絡が可能な通信設備

 ライフラフトは検定済みのレンタル機材を使うことが認められている。そして「常に陸上との連絡が可能な通信設備」として、アマチュア無線や衛星電話が認められているわけだが、イリジウム衛星電話も正式に日本で復活したことにより、この「通信設備」として認められるようになったのである。

 なお、正式な近海区域取得のための恒常的に設置する通信設備としては、現時点でイリジウム衛星電話は認められていない。これは技術的な問題ではなく「継続的なサービス提供が可能か」について審査が行われているため。ちなみに、正式な近海区域以上で「自動追尾式アンテナ」が必須だったインマルサット、ワイドスター衛星電話も臨時航行検査では本体に付属する固定式アンテナのみで通信設備として認められる(通話が安定してできるかどうかは別問題だが)

 これまで、携帯電話圏外を航行する船の通信手段はアマチュア無線が主流であったが、アマチュア無線と交信するには相手も無線従事者資格をもち、かつ、遠距離を交信できるだけの充実したリグを保有し、そして無線交信に関する高い能力が必要であった。例えば家族なり陸上サポートなりにそれだけのスキル持つ人材と設備を確保し、そして、いざというときに常時ワッチをしてもらう負担を求めることになる。

 衛星電話なら利用者に資格は必要なく、大掛かりなリグと無線のスキルがなくとも確実に通話ができる。そしてイリジウム衛星電話なら、動揺する小さな船からでも安定した通話が望める。端末の価格もHF帯域対応の無線機とリグ(それと資格取得)の費用と比べれば、それほど非現実的に高いわけでない。

 誤解を避けておきたいのだが、私はこの記事で長距離巡航におけるアマチュア無線の存在を否定するものではない(オケラネットやシーガルネットが長距離航海者に与えてくれる情報がいかに有益であって、そのコミュニティーはどれだけ勇気を与えているかについては、議論するまでもない)し、遠く洋上を航海するとき、予備のエンジンパーツも持たない限定沿海+αの安全設備だけの船に、はたして自分の命を預けることができるだろうか、という疑問は常に意識しなければならない。

 自分の命を守るために十分な設備とはなにか。同じ「限定沿海」であっても、すぐに救助艇が駆けつけられる東京湾の中と、何かあったら海流に房総半島のはるか沖合いまで持っていかれてしまう伊豆諸島海域とでは、要救助者を見つけ出すまでに必要な時間も、探すべきエリアの広さもまったく異なる。

 本当に意味のある必要な設備、と問われたとき、私はは「タフで操作が容易な衛星電話とGPS」と答えたい。自分の正確な位置を救難組織へ確実に伝えることで、捜索にかかる時間とエリアを最小限にして少しでも速く、そして確実にピックアップしてもらえるはずだ。

 6月1日のサービス開始以来、実に多くの引き合いがあるようで(KNSLの担当者によると、そのほとんどは山間部利用や、緊急災害救援活動時の需要らしい)、8月初旬現在で端末の納期は1〜2週間待ち、という状況。「9月の3連休をドッキングさせて遠出しよう」と密かに企んでいるヨットユーザーは早めに段取りをつけておくのがよさそうだ。

というわけで、できる「サラリーマンセーラー」は洋上でも会社に連絡を欠かさない。「あ、きょうは体調不良なので自宅作業ということで……、え、トラブっているから這ってでも来いっと。いや、それはちょっと無理なんじゃないかなー」 頑張れ、サラリーマンセーラー。目指す港まであと12時間
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