リーディング・エッジ・デザインの山中俊治氏 |
山中俊治氏は、自動車、ロボットなど、幅広いジャンルの製品を手がける工業デザイナーだ。Suicaの読み取り機に付いている、カードを手で持ってかざしているデザインも、山中氏の手によるものである。
今回発表された“TT”“DD”の開発だけではなく、山中氏はW-SIMモジュールの開発から関わった。“2年半という、通常の携帯電話としてはかなり長い開発期間がかかりました。しかし、基礎技術からと考えると(2年半は)かなり短い。すべてのデザインはここから始まりました。単なるデザインプロジェクトではありません」(山中氏)
山中氏は、もともと携帯の開発に興味があったわけではないという。「2年半前のことですが、ウィルコムの“ミスター104”と呼ばれる人から電話がかかってきて、『新しいアイデアがあるんだけど、どうだろうか』と話がありました。私は、最初から携帯をやりたかったわけではないのです。こんなにのめりこんだのは、技術コンセプトを(ウィルコムから)聞いたから。話を聞いて、『これは世界が広がる』と思ったのです」
TT、DDはそれぞれ“Tiny Talk”“Data Driver”の略だとプレスリリースには書かれているが、もっと前からTとDと呼ばれていたと山中氏は話す。「もともと、“T”と“D”と呼んでいました。ただの開発コードだったんです。そのうち、“TT”“DD”とダブルクオーテーションで囲んで呼ぶと、リズム感もあっていいね、ということになりました。そこで『Tiny Talk』『Data Driver』とそれらしい名前を付けて、“TT”“DD”という名前にしたのです」
TTはサイズが小さいだけでなく、機能的にも絞ったものになっている(7月7日の記事参照)。TTにはWebブラウズ機能が付いていない。メール機能も、ライトメール(全角45文字まで送受信可能)とライトEメール(受信は全角123文字まで、送信は全角103文字まで)しかない。先に発表されたウィルコムの通常端末(9月27日の記事参照)が機能満載だったのに比べると、TTの機能は非常にシンプルだ。
「TTは、W-SIMモジュールの出発点。最初のものだから、モジュールを受け止める、ミニマルなものにしたかった」(山中氏)
TTのターゲットは、と山中氏に聞いてみた。「コンセプトは“キュートな小さなカラフルなもの”。従来のウィルコムの商品はビジネスマン向けだった。今回はそうでない人──女性もそうだし、携帯を深く理解していない人に向けた製品にしました。Easy to useを意識しています」
携帯電話の開発では「より小さく」「より薄く」がしばしば話題になる。しかしTTの場合、単に小さく薄くするだけではだめだった、という。
「メーカーによっては、最初から形が決まっていて『これを格好よくしてくれ』と(デザイナーは)依頼されます。それでもプロとして全力を尽くしますが、今回は違った。制作側から『ここまで薄くするのにどれだけ苦労したと思っているんですか』と言われました。でも『この端末は小さくすることだけにすべてを賭けてはいけません』と逆に説得したんです」
もう1つ、山中氏のこだわりが表れているのが、W-SIMモジュールの抜き差しだ。TTにW-SIMモジュールを抜き差しするには、本体の中央部にW-SIMモジュールを深く差し込み、上部のフタをかぶせてロックをかけるようになっている。これは“抜き差しの作法をデザインしたもの”だという。「抜き差しの方法が分かりやすく、しかしあまりに抜き差しがしやすすぎるのもいけないと考えた」(山中氏)。また、W-SIMモジュールの上部にはゴムに似た柔らかい素材が使われている。「他の部分とは違う素材を使いました。重さは増えますが、抜き差しするときに緩衝材としての役割を果たします」
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