702iDシリーズの発表会で、クリエイターの平野敬子氏はF702iDの写真を示しながら詩のようなフレーズを読み上げた。
「手と一体となる、有機的なフォルム。
背面から機械的要素をすべて排除したデザイン。
美しい所作。
電話を使う人の美しいすがた、優雅な身のこなし……」
この詩の中には、2人が目指した端末の世界観が詰め込まれている。従来のメカニカルな「携帯電話」ではなく、和風で、繊細で、曲線的なイメージを持つ端末。「シリーズ・702iDクリエイターインタビュー」、第2回は平野敬子氏と工藤青石氏にF702iDのデザインコンセプトを聞く。
平野氏は、実は開発の段階からF702iDはJR東日本の「モバイルSuica」導入と時期が重なることが知らされていたと話す。
「イノベイティブなサービスが始まる、またとないチャンス」(同氏)。生活に身近な交通系サービスと、携帯が出会う。その時期を1つの“ターニングポイント”ととらえ、これに合った携帯を作ろうと考えたのだという。その答えが、FeliCaを使うための機能性と“美”を融合させるという意味で、上記のとおり「手と一体となる有機的フォルム」ということになる。
「ふくらみに象徴される、指先のデリケートな感覚。これはインタラクティブな関係性の象徴」
平野氏がもう1つ気にしたのは、F702iDを“道具”として考えたいということだ。「日本には、道具を大切にする文化がある。その意味で、あえて『道具』という言葉を使っている」(同)。携帯はいまや大量に発売され、次々と消費されている。最新機種はすぐに型落ち端末となり、価値のないものとなるという現状に、平野氏は心が痛むのだという。そんな中でF702iDは、使い捨てではなく大切に使ってほしいという願いをこめて、“ユーザーと一体感のある端末”を作ろうとしたのだとした。
F702iDをあまり前例がない有機的デザインでおおうことは、やはり難しかったと工藤氏は話す。「3次元的な曲線を作ることは、マスプロダクトである携帯にとって難しいこと。3DのCADで設計することになるが、こうしたシステムは複雑な曲面を作ることに長けているものではない」
作りたいのに、実現できない。そんなもどかしさがあったが、ここは富士通側と協力して「(ややもすると既存の枠にはまりがちな)マスプロダクトだけれど、手をかけていく」ということを確認しあって進めたという。
この点は、互いに信頼関係を構築できたと満足感をにじませる。平野氏、工藤氏がともに強調するのは「富士通の技術力がなければ実現できなかった」ということだ。
「(開発に費やした)この2年の出来事を、どう伝えればいいのか……。富士通とは堅い絆で結ばれていた」(平野氏)。F702iDの発表会場にも、開発に関わった多くの人間にメールして「ぜひ来てほしい」と伝えたのだという。
F702iDのこだわりは、平野氏が各カラーバリエーションを紹介するときの言葉遣いにも見ることができる。例えば「真白」(ましろ)は、こんな風に表現される。
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