嫌われ松子の一生「人間の価値って……」Mobile&Movie 第212回

» 2006年06月02日 19時21分 公開
[本田亜友子,ITmedia]
作品名嫌われ松子の一生
監督中島哲也
制作年・製作国2006年日本作品


 今回ご紹介する作品は、中谷美紀主演の『嫌われ松子の一生』。以前ご紹介した『電車男』の清楚なエルメスとは正反対の汚れ役・松子を演じているのですが、不思議と嫌いにはなれないのです……。

 川尻笙(瑛太)は、ぬるい毎日を送るプータロー。夢だったバンドもあっさりやめて、恋人の明日香(柴咲コウ)にも「笙といると生きてることがつまんなく感じる」と去られてしまいます。

 一人になってボーッとしていたところに父(香川照之)が訪ねてきました。福岡からわざわざ上京してきた父の目的は、松子(中谷美紀)のため。松子という名前も初めて聞く笙。松子は笙にとっては叔母にあたり、随分前に家を出て行方不明だったこと、そして先日殺されて遺体で発見されたことを話します。そしてヒマそうにしている笙に、松子が住んでいたアパートの整理をするよう言いつけて、父は慌しく帰っていきました。

 しかたなく父の言うとおり、松子が住んでいたアパートまで行き、掃除を始める笙。その部屋はまるでゴミ屋敷。松子という女性がどんな暮らしをしていたのか、笙は想像もつきません。そんな時の隣の部屋の大倉(ガレッジセール・ゴリ)がやって来て、かつての松子の暮らしぶりを語り始めます。川原のベンチに座り、時折泣いていたと。いったい何を想って泣いていたのか……。笙は少しずつ、松子の人生に興味を持ち始めます。

 昭和22年福岡で生まれた松子は、優等生としてすくすく育ちます。やがて家族の望み通り、中学校の教師となり、生徒たちからも好かれていました。同僚の佐伯先生(谷原章介)に憧れ、いつかデートできる日を夢見ていたのも束の間、まず最初の不幸が松子にふりかかります。それは修学旅行先で起きた窃盗事件。クラスの生徒が疑われ、松子はごまかそうとしますが、すべてが裏目裏目に。教師をやめざるをえない状況に陥ってしまうのです。これまで親の望む通りに生きてきた松子は、期待を裏切ったことに耐え切れず、家を飛び出してしまいます。

 そして初めて心から愛する男・八女川(宮藤官九郎)と出会い、同棲を始めます。しかし、作家志望の八女川はスランプになると松子につらくあたるばかり。いくら殴られてもそばにいたいという松子の願いもむなしく、八女川は出ていってしまいます。そんな松子に優しく接したのは、八女川の友人の岡野(劇団ひとり)。岡野もまた作家を夢見ていましたが、会社員で既婚者。いつか岡野を自分のものにできると信じ始めた松子ですが、また捨てられてしまいます。それでも松子は次の男、小野寺(武田真治)、島津(荒川良々)と、愛し尽くし続けるのです。

 どんなにひどい目にあっても、たくましく立ち上がる松子に、不思議な感情を抱く笙。松子と関わった人の話を聞くうちに、すぐそばに今も“松子おばさん”がいるような気さえしてきました。そんな時、明日香から電話が入りました。明日香は携帯電話を握りしめ、震える声で笙に伝えます。

 「人間の価値って……」

 ふいをつかれる笙。

 「人に何をしてもらったかじゃないよね、人に何をしてあげたかってことだよね」

 松子からのメッセージを受け取ったような気がした笙。松子の波乱万丈の人生の最後は愛に満ちたものでした。松子が最も愛した男とは、いったい誰だったのか? そして松子を殺したのは誰だったのでしょうか?

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